「きっと調査は、なあなあに終わる」(農林水産省関係者)
農林水産省は、大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」(広島県福山市)の前代表=贈賄罪で在宅起訴=から賄賂計500万円を受け取ったとして収賄罪で吉川貴盛被告(元農相)が在宅起訴されたことを受け、鶏卵行政の公正性などを検証する第三者委員会を設置した。調査に乗り出したが、省内からは冒頭のような冷めた声が漏れる。野上浩太郎農相は「政策判断は妥当」と繰り返すばかりで説得力のかけらもない。
黒幕・西川氏の調査せず
記者会見や国会答弁でもこのフレーズを連発。家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」に関する政策決定の過程が不当に歪められていなかったか否かをゼロベースで検証しなければならないにもかかわらず、形式的な調査で終わらせると自ら暴露しているようなものだ。
実態解明に目を背ける驚くべき発言が国会で飛び出した。事件の黒幕とされる西川公也・元農相は吉川被告を上回る額の現金を受け取った疑いが浮上している上、アキタフーズの顧問を務めるなど前代表とは昵懇の関係だった。前代表と共に大臣在任中の吉川被告の下にアニマルウェルフェアに関する陳情に訪れていた。
共産党の田村貴昭氏が2月10日の衆院予算委員会で、西川氏が大臣在任中、前代表から現金を受け取ったか調査したかと質問したのに対し、野上農相は「調査を行うことは適当でない」と答弁。田村氏は「しっかり調査しないと真相究明にならない」と語気を強めた。
弁護士らで構成する第三者委員会で、西川氏の件を調査する可能性は残されている。ただ、西川氏に加え、前代表から接待を受けズブズブの関係にある本川一善・元事務次官らについて、省側が情報を出さず「踏み込んだ調査はされないのでは」(関係者)との見方がくすぶっている。
異論を黙殺、議事概要に記載せず
ここでアニマルウェルフェアをめぐる政府の対応を振り返る。国際機関は2018年9月、巣箱の設置など日本の養鶏業界が不利になりかねない案を策定。前代表は吉川被告に対してロビー活動を展開し、日本政府は基準案に反対する意見書を提出した。その後、基準案から巣箱設置などの項目は削除された。
田村氏は予算委員会で、国際基準案などについて議論する農水省有識者会議のある委員の発言を紹介。その内容は「アニマルウェルフェアは世界の趨勢なので国際基準を作った方がいいと何度か発言したが、言わせておくという感じで私たちの意見が無視されているという感じだった」というもので、業界が不利にならないよう出来レースだったというふうにも受け取れる。
また、吉川被告の事件が明るみに出た昨年12月中旬の会議で、この委員は基準を再討議する必要があると主張したが、農水省側に「全く無視された」と受け止めたようだ。事実、田村氏によると、再討議の必要性を説いた下りは議事概要で1行も触れられていない。これでは、何かやましいことでもあるのかと普通の感覚を持った人なら疑念を抱く。
農水政策は迷走続き
農水省が設置した第三者委員会の初会合は2月3日に開かれたが、協議内容は明かさない方針。検証内容を記した報告書をいずれ公表するという。多くの疑念が持たれ、国民の関心も高い以上、プライバシーや公判への影響に配慮しながら、できる限りオープンにすべきだ。最近の農水省の政策は国民感情とかけ離れ、失敗・迷走しているものも少なくない。
この事件により、「学生が農水省に入ってこなくなる」(省関係者)という嘆きの声も聞かれる。失墜した信頼をいかに取り戻すか。真剣に考えなければ、長期にわたって深い傷を負うことになる。
(文=編集部)