「幹部の処分は適当に終わらせるのだろう」
大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」から賄賂を受け取ったとして収賄罪で在宅起訴された元農相の吉川貴盛被告と同社前代表=贈賄罪で在宅起訴=との会食に同席していた農林水産省幹部の問題をめぐり、省関係者からは冷めた声が聞かれる。参加した幹部らは「吉川大臣が払ったと思う」と口をそろえるが、本当にそう考えているのか。説得力がなく疑わしい。
「記憶にない」は嘘?
吉川被告が大臣退任直後の2019年9月18日に前代表と行った会食に、水田正和生産局長ら畜産行政を担う5人の幹部が会食に参加したとの疑惑が一部報道で浮上。吉川被告が在宅起訴された後の1月17日の東京新聞朝刊の一部を引用する。
<高級和菓子の土産も手にしたとされる官僚たち。五人とも本紙の取材に「出席した記憶がない」と口をつぐんだ>
この五人とは、まさしく水田氏らのことを指す。政府関係者は「こんな大切なことを記憶していないのなら、彼らに政策なんて任せられない。白々しい話だ」と切り捨てる。省の聞き取り調査には参加したことを認めているのだから、報道機関の取材に対し、嘘をついたことになる。隠したいことでもあったのだろうか。
現次官も会食に参加
実は鶏卵汚職に関連した会食は19年9月に加え、18年10月にも開かれていた。吉川被告が大臣に就任した直後の18年10月の会食には、枝元真徹事務次官が当時、生産局長として参加していたことが発覚した。枝元氏は「大臣から招かれた」と説明。前代表が出席していることは会場に行くまで知らなかったという。支払いは吉川被告が行ったものとの認識を示した上で、前代表との金銭のやり取りは否定している。
役人のほか、広島県選出の衆院議員河井克行被告=公選法違反罪で公判中=はいずれの会食にも同席、農林族の重鎮である西川公也元農相は19年の会食に参加していた。
野上農相は国会で「政策の話題は出なかったと聞いている」と答弁。では、会食の目的はなんだったのか。前代表はロビイストとして、国際機関が示したアニマルウェルフェアの基準案が業界に不利にならぬよう政治家らに働き掛けていたことは、関係者の間では周知の事実だ。共産党の田村貴昭衆院議員は、野上氏の答弁に対し「これだけのメンバーがそろっていてアニマルウェルフェアの話をしないわけがない」と反発した。
しかも、さまざまな政治家に金をばらまいている前代表がいる傍ら、資金力が乏しいとされる吉川被告が高級料理店の代金を払うとは信じがたい。霞ヶ関関係者は「前代表が支払ったことくらい、小学生でもわかるのではないか」とあきれる。
利害関係者の接待禁止
国家公務員倫理法に基づく倫理規定によると、役人は所管する業界の関係者におごってもらってはいけない。役人から見れば、アキタフーズの前代表は利害関係者に当たる。大臣が払ったという認識を盾に逃げ切ろうとしている上、「秘書課もまったく調査に後ろ向き」(農水省関係者)という援護射撃も加わり、「結局政治家が払ったという結論に持っていく」(メディア関係者)との見方が強い。そうなると、軽い処分で終わり、枝元氏は次官続投、水田氏はのうのうと天下りすることになるのだろうか。
一方、菅義偉首相の長男から接待を受けた総務省の秋本芳徳情報流通行政局長と湯本博信官房審議官は官房付に異動させられた。事実上の更迭人事だ。農水省の会食とこの件を単純に比較することは難しいが、両方に共通するのは「業界との距離の近さ」であることは間違いない。
菅首相の長男による接待疑惑は連日テレビで取り上げられ、ネットで批判が噴出したことが、人生を棒に振るような厳しい処分につながったことは間違いない。
野党は総務省の次は、農水省を狙い撃ちにするだろう。厳しい質問を投げかけ、問題提起し、世論を喚起しないと、それこそいい加減な処分に終わり、複雑な癒着の構図解明にはつながらない。
(文=編集部)