「アジア最低レベルの水準だ」。政府関係者は養鶏農家へのいら立ちを隠さない。農林水産省が再三にわたり都道府県や農家に対し、養鶏場の衛生管理を徹底するよう求めているが、鳥インフルエンザの発生が止まらない。おまけに鶏卵大手生産会社の前代表が元農水相に賄賂を渡していたことや農水省幹部への接待が発覚し、養鶏業界や行政に向ける世間の視線は厳しさを増している。
不名誉な記録更新
鳥インフルエンザは昨年11月の香川県での発生を皮切りに、今月1日時点で同県を含む17県に拡大。殺処分の対象となった鶏は900万羽を超え、過去最多という不名誉な記録の更新を続けている。政府関係者は「今シーズンは間違いなく1000万羽に達する」と身構える。
なぜ止まらないのか。生産者の衛生管理への意識が欠如していることが最大の理由だ。鳥インフルエンザが発生した養鶏場の多くでは、ウイルスの運び役であるネズミなどの小動物が侵入できる隙間が壁や天井にあることが判明。「口を酸っぱくして要請している」(与党議員)にもかかわらずこの有様だ。
畜産業界では、牛を頂点に次が豚、最も位が低いのが鶏とされている。なかには反社会勢力まがいの事業者もいるため、自治体では手に負えないケースもあり、対応に苦慮している。
千葉はだらしない
今シーズン初発の香川県も「養鶏のクラスター」(同県選出の衆院議員)と揶揄されるほどのさんたんたる状況だが、『おれは男だ!』というテレビドラマで一世を風靡した森田健作知事が率いる千葉県はその上をいく。千葉は全国屈指の養鶏が盛んな地域だが、1事例当たり100万羽超の殺処分を実施したケースは3例に上るなど、飼育されている鶏の3分の1が消失した計算となる。自民党農林族議員からは「千葉県はあまりにもだらしない」とため息が漏れる。
千葉で鳥インフルエンザが連発する中、森田知事は先月上旬、ついに野上浩太郎農相のもとに乗り込んだ。「県職員は疲弊している」「風評はいったいどうなるか」。農相に訴えかける様子はまさに元俳優とあって、周囲を圧倒する演技力だったという。しかし、語り掛けた内容は理解が不足しているのかピントがずれたものも含まれており、政府関係者は「レームダックなんだろう」と冷たい視線を送る。森田知事は3月21日に投開票される知事選には出馬せず、退任後はタレント業に復帰する見通しだ。
畜産業をめぐっては、家畜伝染病「豚熱」も収束の兆しが見えない。今年1月には和歌山県でワクチンを接種していた豚に感染が確認された。これも衛生管理に不備があったことが原因とみられる。
鶏卵汚職の関係先でも発生
実は今シーズンに鳥インフルエンザを起こした養鶏場の中には、吉川貴盛元農相に賄賂500万円を渡して政界・官界をざわつかせているアキタフーズ(広島県福山市)の関係先も含まれている。「日本は賄賂文化」(野党議員)というメッセージが世界に発信されかねない状況で、一握りの政治家、経営者、官僚の癒着のお陰で業界の信頼は失墜。信頼回復には「一刻も早く鳥インフルエンザを収束させる必要がある」(農水省関係者)との指摘も出始めた。
卵価格への影響は限定的
鳥インフルエンザのピークといわれる2月は過ぎたが、ウイルスをまき散らす野鳥は5月くらいまで滞在するので油断はできない。一過性の問題で終わればいいが、生産者の意識が低いままだと、来シーズンも今シーズンと同じことの繰り返しになりかねない。一方、現時点では、卵の価格の上昇は局所的。そもそもコロナ禍で需要が鈍っているため、価格は例年よりも低く、市民生活に影響はない。
鳥インフルエンザが起きても生産者には手当金が支払われるため「痛くもかゆくもない」(関係者)という声もある。ただ、鳥インフルエンザ発生を機に廃業に追い込まれる養鶏場が続出すれば、価格が高騰し、供給体制に大きな影響が出かねない。香港で日本の卵かけご飯が流行しているなか、鶏卵輸出の拡大にも水を差す。衛生管理を怠った生産者には厳しい罰則金を科すような法改正も今後議論の焦点になりそうだ。
(文=編集部)