9月に厚生労働省が自ら事実を発表するかたちで発覚、のちに閉会中審査において追及を受け、同月末には衆議院解散総選挙の陰で厚労省の年金局長が処分まで受けた未払い年金問題「第二の消えた年金」は、事なきを得たかに見える。
第二の消えた年金とは、共済年金受給者を中心に約10万6000人、総額にして約600億円が支払われていなかったというもの。そのメカニズムとしては、年金が加算される振替加算(厚生年金や共済年金の保険料を240月以上納めた人の配偶者が65歳を越えた時にもらえる。昭和41年生まれ以降に限る)をもらう権利のある人が、日本年金機構や厚労省の不備によってもらえていなかった。
不備とは具体的に、年金機構の情報連携が不足していたことや、自動的に支給開始にならない人に手続きをさせそびれたことだ。
特にこの自動開始がなされていない人に関しては、未払い額が128億円、対象者が約1万2000人も存在した。夫が年下の場合には自動開始にならず、届出をさせる(『老齢基礎年金額加算開始事由該当届』を提出する)制度のため、届出義務に気づかない人たちに未払いが生じたのだ。
この届出義務は、夫(共済年金や厚生年金保険料を納めている人)が年下で、妻が先に65歳になった際に発生する。つまり、年上妻の場合は、この未払いが起きる可能性が出る。
そのため、厚労省は今回、未払いの可能性を洗うために「年上の妻(振替加算をもらう人)がいるパターンの、すべての被保険者について調べた」(年金局担当者)という。届出漏れによる振替加算の未払いを、すべて調べたかのようだ。
しかし、未払いはこれでは終わらない。「年下の妻」の場合も支給漏れになる可能性があるからだ。
制度上、夫が年上でも、妻が65歳を越えてから振替加算受け取りが始まるパターンが存在する。たとえば、夫が50歳ごろまで、投資などで生計を立てている個人事業主や、フリーの芸能従事者、物書きで、その後会社員になったパターンなどが当てはまる。
「たとえば、奥様が66歳、旦那様が68歳の時に振替加算の受給要件である“被用者年金(厚生年金や旧共済年金など)保険料を納付した期間の要件”(240月)を満たして退職した時には、振替加算を受給できる要件は満たしていますが、受給するには『老齢基礎年金額加算開始事由該当届』の提出が必要です。年下の旦那様の場合でも、届出漏れはあり得ます」(レディゴ社会保険労務士、FP事務所代表・小野みゆき氏)
つまり、年下妻のパターンでも、届出漏れによる未払いはまだあり得るのだ。厚労省は、そうした未払いの可能性についても、考えが及んでいる可能性はある。しかし、調査する気配はないようだ。もともと、届出をしなければ年金をもらえないような制度設計をしておいて、さらに未払いも放置する。これでは国を支えてきた国民が安心して暮らせるわけがない。
(文=編集部)