その一方で、時事通信が「安倍内閣の発足以降、景気の回復を実感するかどうか」について実施したアンケートでは、「実感しない」という回答が全体の68.6%で、実感すると答えた人は23.7%だった。
これらの数字をどう読むかはさておき、安倍内閣は今後も選挙時に掲げた公約の内容を、さらに推し進めていくことはまず間違いないだろう。同公約の内容には疑問に感じるものも少なくないが、そのなかのひとつが、2010年に施行された、改正貸金業法による総量規制についての見直しである。
具体的な自民党の公約は、次の通りである。
「182 適正な規模の小口金融市場の実現と真の返済困難者の救済
2006年12月の改正貸金業法の成立、2010年6月の同法の完全施行という一連の流れの中で、市場の収縮・マクロ経済への悪影響、新種のヤミ金の暗躍、返済困難者の放置といった様々な影響が顕在化しています。そのため、上限金利規制、総量規制といった小口金融市場に対する過剰な規制を見直すことによって利用者の利便性を確保します。同時に、多重債務者に対する支援体制を強化するとともに、ヤミ金融業者の摘発強化、適正業者の育成を図り、健全な借り手と健全な貸し手による適正な規模の小口金融市場の実現と真の返済困難者の救済を目指します」(自民党選挙公約『Jファイル2012』より)
問題なのはいうまでもなく、「上限金利規制、総量規制といった小口金融市場に対する過剰な規制を見直す」という部分である。
「総量規制」とは、貸金業者から消費者への貸付を年収の3分の1以下に制限することである。そもそも、多重債務が多発したのは、貸金業者による過剰な融資が原因だったことは何よりも明らかだ。返済能力を大幅に超える融資を、しかも年率25パーセントを超える高金利で貸し付ければ、やがて返済不能に陥るのは目に見えている。かつては年収200万円程度しかないアルバイトや派遣社員、さらに収入のない主婦にすら300万円以上も貸し付けるケースが珍しくなかったという状況は、今から考えれば正常とはいえなかろう。
貸付すなわち借金というものは、あくまで返済とセットにして考えなくてはならないものである。1980年代以前のような、アルバイトなどの非正規労働者でも右肩上がりで給与が確実に上がっていた時代ならいざ知らず、現在では正社員ですら昇給が不安定な状況である。そうした返済能力が全体的に低下している時代において、総量規制という政策は至極当然のものである。
ところが、2010年の総量規制施行直前には、一部議員や一部エコノミストなどから、総量規制によってかえって庶民生活が圧迫され、さらにヤミ金などが増えるとの指摘もあった。当時の報道を振り返ると、「週刊朝日」(朝日新聞出版/10年7月10日号)では「改正貸金業法で借金難民750万人」と題した記事で、今後は総量規制にはじかれた人がヤミ金や悪徳商法の被害に遭うのではないかと警告しているし、月刊誌「THEMIS」(テーミス/10年6月号)でも、「改正貸金業法 悪徳弁護士&司法書士や闇金を増やす」という、ほぼ同じ趣旨の記事を掲載している。
●ヤミ金の被害、自己破産は減少傾向
では、3年近くが経過した現在、ヤミ金被害や借金苦が増えているかというと、そうした事実を裏付けるものはほとんど見当たらない。前述の北氏の記事でも触れられているが、ヤミ金の被害や自己破産などは、この2年近くでかなり減少している。
例えば、自己破産件数は、10年度が総数で13万1370件だったものが、11年には11万449件に減少している。12年ではさらに減るものと予測されている。ヤミ金被害の相談件数についても、警察や消費生活センターなどの統計をみても減少傾向にあると考えられよう。12年2月頃には、一部地域で「増加した」などと報じられたこともあったが、全体としてみれば総量規制の効果は現れているとみられている。