この動きは大阪府の私学審議会や財務省の国有財産審議会に影響を与え、15年1月27日には大阪府の私学審議会で法人としての「認可適当」を得て、同年2月10日には財務省の近畿地方審議会で学園用地の売却を前提とした賃借権を入手するのである。小学校開校に向けて森友学園にとって大きな課題であった学校法人格の取得については、「認可適当」のお墨付きをもらい(※2)、学園用地の取得が資金難のなかでも実現するのである。その手品のような解決策が、今回の「売り払いを前提とする賃貸借契約」である。
売買による一括払い下げが基本であった国の財産処分を、まず特例的に貸付契約し、その間に土壌改良工事(同年7月から11月)を進め、16年には校舎建設に入ったのである。一方、学園用地を賃借から売却で手に入れるという点も資金難の森友学園にとっては高いハードルであったが、これをクリアしたのが、埋設ごみを理由とした鑑定価格より9割引きするという奇手であった(※3)。
この値引きによって、9億5600万円の土地を1億3400万円で売却することにし、さらに10年の延払い、つまり分割支払いを認め売買契約を結んだのである。しかし鑑定価格の9割引きで払い下げをするというのは、国有財産を違法に払い下げるということであり、この時点で森友問題は財政法違反の法令の枠を大きく踏み外すことになったといえる。庶民の目からして「ありえない」と注目を帯びるきっかけとなった。
以上の経過より、森友学園が国から特例的な扱いを受け、国有地の格安払い下げを受け、学校建設まで終え、昨年4月に開校の一歩手前にまで漕ぎ着けていた。
朝日新聞によれば、今回の契約書の決裁原本では「本件の特殊性」に基づく「特例処理」だと書かれていたとされる。担当の官僚からすれば資金も資格もない森友学園に小学校開設の道筋をつけるのは並大抵ではなく、これまでの処理事例のないやり方での決裁を得やすいように「特例処理」との記載を行ったのであろう。もちろん昭恵氏が名誉校長であり、その背後に安倍首相がいることを意識し便宜供与された事例だったことがわかる。
書き換えを迫られた状況変化
ところが、17年2月になって森友学園への格安払い下げの事実が、豊中市の木村市議や朝日新聞による情報公開請求の結果わかった。当初非開示とされたものを異議申し立てによって開示させるという経過があり、国会審議で本格的に問題になり始め、安倍首相の「私や妻が関与していれば議員を辞職する」発言に続く。
【経緯】
・17年2月8日:豊中市の木村真市議が、売買契約書への情報公開の結果、1億3000万円で払い下げられたという事実をつかむ
・同2月9日:朝日新聞が同様の内容を報道
・同2月17日:国会で安倍首相が「私や妻が関与していれば議員を辞職する」と発言
その後、佐川理財局長(当時)が国会で「交渉記録をすべて廃棄した」「森友学園と価格の交渉はしていない」と答弁した。朝日の今回のスクープによって図らずも焦点化したのは、決裁文書を書き換えたという公文書偽造等罪の疑いだけでなく、そもそも国有財産を首相の縁故者に不当に払い下げ、国家財政に損害を与えたという森友問題の核心点である。
すでに会計検査院の検査では、格安払い下げが「根拠不十分」であり「適切ではなかった」と判断されるに至った。国はこれまで隠してきた情報を小出しにし始め、森友学園に損害賠償で訴えられる恐れがあるため格安で払い下げたと説明している。しかし、格安払い下げは官僚が組織的に権限を行使して実施したものであり、責任は免れない。
この特例処理を実施するための財務省内の法令的な検討経過について、同省は当初廃棄したとして情報開示しなかったが、上脇博之神戸学院大教授らの情報公開請求で最初に出した5件を含め、25件の情報の総量は400ページにもなっている。違法な取扱いをしていなければ必要のない、この作成に掛かった官僚の労力は、国家の損失といえる。そして、財務省による国有財産の不当な払い下げという背任行為を「適正だ」と言ってきた安倍首相、麻生太郎財務相、石井啓一国交相の辞職も免れるものではない。
財務省の「損害賠償請求を避けるための格安払い下げ」という嘘
財務省は会計検査院の検査結果が発表されて以降、格安払い下げについては「籠池氏に脅され、損害賠償請求を避けるために格安で払い下げざるを得なかった」という話を再び強調し始めた。検察による籠池夫婦の逮捕・勾留を後押しする狙いもあると考える。
しかし、今回の朝日のスクープを見ても、籠池氏一人のせいにして森友学園への便宜供与を説明できる問題ではないことははっきりしている。「売却条件付貸し付け契約」とは、実務に通じた官僚だからこそ考えた方法である。貸付契約によって土壌改良工事を進め、開校に間に合うように校舎建設が進められるようにしたのは、官僚たちである。しかも国有財産の払い下げに当たって、このように賃付契約をした事例は、川内博史衆議院議員の質疑でわかったが、過去1000件ある中で1件、つまりほかにはないのである。
実際、新たな埋設ごみの総量が2万トンとして、その撤去に8億2000万円もの費用が掛かると算定計算したのは国交省大阪航空局である。通常ならば不動産鑑定士に依頼し作成する。しかし各種調査報告書からいって、深部にごみがないことを国交省は把握していた。その用地の地下に2万トンのごみがあるなどと虚偽の鑑定をできる不動産鑑定士はいないため、国交省の官僚が計算した。森ゆう子参議院議員が入手した同土地の鑑定評価書は、すでに存在しており、過去に大阪航空局自身が調査していた。
さらに、財務省が本当に籠池氏からの損害賠償請求を恐れていたとも考えにくい。賃付契約書である「国有財産有償貸付合意書」には、その第5条(土壌汚染及び地下埋設物)では、払い下げた国の土地に関して、それまで国が調査してきた4つの報告書(※4)を示しつつ、「本報告書等に記載のある汚染物質や地下埋設物の存在を理由として(略)損害賠償請求を行わないこと」が定められている。つまり、報告書に記載があるごみを理由とする損害賠償請求は、行われるはずがないのだ。森友学園が損害賠償請求を行うためには、その新たな埋設ごみが報告書には記載されていないごみであることを自ら証明する必要があったということになる。その上、上記報告書でも明らかなように、3メートル以深の深部にはごみはなく、証明することはできないとわかっていた(※5)。
森友学園問題は、安倍首相の縁故者である籠池氏が理事長を務める森友学園に、国有財産を不当に格安で払い下げるという便宜供与事件である。その際、安倍首相側が具体的に財務省の高官に働きかけたのかどうかは、検察の捜査を待つほかはないが、官僚が本来の職責を忘れ便宜を図ってきたという背任行為の証拠が積み上がっている。今回の朝日スクープは、これらの実態をより明らかにしてくれたことになる。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
※1:加計学園問題では、今治市は国家戦略特区での特区認定があった17年1月20日の前年に、当時今治市の市有地だった加計学園獣医学部建設予定地における架電施設建設の許可を出している。一方、加計学園は文科省の認定が下りる8カ月前の17年4月には、校舎建設工事に入っている。
※2:大阪府の認可は、実際の校舎を見て認可が下りるということであった。
※3:購買予定の土地の有害物による汚染や埋設ごみ等の「瑕疵」を理由とした土地鑑定価格の値引きは、官僚がよく使う「奇手」である。東京都の豊洲市場でその値引きの額の妥当性が論議されている。
※4:「大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)土地履歴等調査報告書(H21<2009年>8月)」、「平成21年度大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)地下構造物状況調査報告書(OA301)」、「大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)土壌汚染概況調査業務報告書 平成23年11月」、「平成23年度大阪国際空港豊中市場外用地(OA301)土壌汚染深度方向調査業務報告書 平成24年2月」
※5:3メートルより浅い部分にしか埋設ごみはなく、そのごみは15年の土壌改良工事で撤去し、その分の支払いも「有益費」として受け取っていた。