山岸氏が続ける。
「あれはアウトです。自分が裁判官で、所長代行が傍聴席にいて咳払いでもされたら、固まってしまいます。法律に書いてあるわけではないですが、裁判所の内規で、他の裁判官が傍聴席にいてはいけないことになっているはずです。
しかし裁判官の独立が謳われていても、それがどこまで貫かれているかというと疑問です。客と7年間も男女関係を続けていた銀座のクラブのママに対して、その妻が慰謝料を求める裁判を起こしたことがありました。2014年に東京地裁で出た判決は、ママが男性と肉体関係を結んでいたのは優良顧客を確保して店の売り上げに貢献するための営業活動なので、不貞行為ではなく、夫婦関係を乱すものでもなかった、という内容でした。この裁判官、判決の直後に横浜地裁の川崎支部に異動させられましたからね。最高裁事務総局というところは人事権を持っていますから、怖いですよ。変な判決書いたら飛ばされますから」
福井地裁で14年に大飯原発差し止め判決を出し、15年に高浜原発差し止め判決を出した樋口英明裁判長は、名古屋家裁に異動させられた。
「裁判官の内情を描こうとしているのが、『99.9』の新しいところですね。これまでの法廷ドラマというのは、検察官が『おまえ、やったんだろ!』『有罪だ!』みたいに鬼みたいに攻めて、弁護人ががんばって、最後はおおらかな裁判官が大岡裁きをするっていう構図でしたが、裁判官が胡散臭い感じで描かれているのは珍しいですね」
弁護士倫理
早稲田大学大学院法務研究科の孫佳音さんは言う。
「松本潤が演じている深山弁護士が、依頼人の利益を守るっていうよりは、真実の追求を優先するという姿勢は、法曹倫理に合わないのかなと思いました。『罪を犯しているんだろうな』と皆が思っていても、被告人が『やっていない』といえば守ってあげるのが、法曹倫理上の弁護士の使命ですから」
宮澤さんも、あるシーンが気にかかったという。
「1話で、裁判官を辞めた尾崎舞子(木村文乃)が弁護士登録してないのに勾留中の被疑者に接見していて、それ自体、違法ですが、『あなたはやってるんだからすぐに自白して情状弁護に切り替えなさい』と言っていて、それは弁護士倫理に反する行為ですよね」
山岸氏が解説する。
「弁護人としての依頼を受けて接見した段階で、そのほうが有利だからやったことを認めたほうがいいよと勧めるのはOKです。証拠で犯行が明らかになっている場合は、『意地を張って裁判官の心証を悪くして重い判決になるよりも、反省を示したほうがいい』とアドバイスするのも弁護活動ですから。覚醒剤で捕まった人に接見に行って、『やったのですか?』と聞いて『やった』と答えられたら、『では、もう自白して執行猶予をもらって出てきなさい。初犯だったら懲役1年6月、執行猶予3年だから』と言いますよ。
しかし、明らかに尿反応も出て有罪だとわかっているのに、『やってない。無罪です』という場合は、辞任することもできます。イニシアチブは弁護士にあります。だけど一旦引き受けて法廷に立ったら、お天道様が見たって有罪だとわかっていても、依頼者が無罪だと言うなら、それを守ってあげるのが弁護士倫理です」
0.1パーセントの可能性を追求する弁護士のドラマは、専門家の目で見ると、さまざまなことを考えさせてくれるのである。
(文=深笛義也/ライター、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)