派閥
選挙で若手が勝ったことで、第一東京弁護士会ができたわけだが、東京弁護士会では今、自由な選挙が行われているのだろうか。
「東京弁護士会には、大きな派閥が3つくらいあります。選挙になると、『うちの派閥は誰々先生に入れるから』と言われるんです。党議拘束のある国会議員と同じですね。霞が関の、東京地裁・高裁の建物と日比谷公園の間に、弁護士会館という大きなビルがあります。投票の日は、各派閥が弁護士会館の中の会議室を借り切って、皆そこに集まって、『誰々先生を会長にするぞー』って気勢を上げて、そこから投票に行くんです。造反者を出さないためにそうするんです。帰ってきたらまた、誰々先生に投票したということをチェックするわけです。
派閥に入っていない弁護士には、電話がかかってきます。司法試験に合格した人は、司法研修所に行きます。そこでのクラスメイトは、一生の仲間という感じがあるんですね。その時のクラスメイトから、電話がかかってくるんです。一言も喋ったことがないのに、『第23組で一緒だった千代田です。港先生お久しぶりです。今回の選挙、豊島に投票お願いします』みたいな感じですね。大きい事務所だと、『練馬先生にもよろしくお伝えください』とかね、あるいは事務所の名簿を見て、その先生に『港先生と同じクラスだった千代田ですが、豊島に投票お願いします』とか言ってくるんで、受付の段階でシャットアウトしてます。
選挙があると弁護士会が沸くんです。かといって、会長とか副会長になったからといって、いいことがあるかっていったら、別にないんですよ。弁護士会から払われる手当は微々たるもんで、それで食っていけるわけじゃありません。すべて会議で決まるんで、株式会社の代表取締役みたいに執行権があるわけでもない。まあ名誉職です。日弁連会長となるとね、何か政治力みたいなものも伴ってきますけど、単位弁護士会の会長なんてそんな権力ないですから。
さらに順番があるんです、次はA派閥から出すので、誰か見繕ってくださいっていう話にもなります。司法研修所の話をしましたけど、司法試験に合格した人は全員そこで1年間研修するんです。司法研修所に対して、検察庁からも検察教官を派遣しますし、裁判所からは裁判教官を派遣します。同じように弁護士会から弁護教官を派遣するんですが、これも派閥ごとの順番で、次はA派閥から行きます、その次はB派閥から行きますっていうようになってます。派閥に入っていないと、ひっきりなしに勧誘されます。2人くらい新たに入ると歓迎会が開かれて盛り上がるという話です」
東京弁護士会以外は、どうなっているのだろうか。
「同じように派閥があります。だけど特にこの派閥争いが激しいのが、東京弁護士会。やはり約8000人と人数が多いですから。東京以外に目を転じると、人数が100人とか200人くらいしかいないような単位弁護士会もあるわけです。そういうところはだいぶ和気あいあいとやっていて、選挙というよりは、村の集会みたいな感じで、飲み会で会長が決まるみたいです。それでも自治権を持って、弁護士の生殺与奪を握っているんだから、東京よりもっと凄いというか、恐ろしい世界ですよ。どっちにしても、弁護士会というのは伏魔殿ですよ」
(文=深笛義也/ライター)