残り約1カ月で東京オリンピックが開催される。それでも新型コロナウイルス感染症の影響もあり、一向に盛り上がる気配がみえない。本当にこのまま開催されるのか――。そんな声が上がる最大の理由は、感染対策を含む準備面が満足にされているとはいいがたい状況にあることが大きい。
本大会では、選手やコーチ・関係者を隔離し、外部との接触を遮断する「バブル方式」による感染対策が発表されている。バブル方式はNBA(米プロバスケットボール)やテニスの全豪オープン、ハンドボールやフィギュアスケートの世界選手権といった国際大会ですでに採用され、一定の効果をあげている。だが、オリンピック本大会のように競技数も多く、9万人を超えるとされる関係者が訪れる大会での運営は未知数だ。全国紙のオリンピック・パラリンピック担当記者は、次のように話す。
「陽性者を出しながらも、バブル方式を採用することで一応は複数の国際大会を最後まで完遂してきた実績があります。それでも、関係者を含め10万人近い人数が日本を訪れ、1カ月近い日程で33競技を開催するような前例はないわけです。バブルを全面に打ち出して、安全・安心というのは正直、厳しい。おそらく大会中にもコロナ陽性者が増えるという流れは避けられないでしょう」
特にオリンピックでは他の大会とは異なり、選手は選手村で隔離されることになるが、関係者は選手村への宿泊は不可となるため、盲点はいくらでもある。さらにいえば、選手だけでなく関係者やチームスタッフすべてがルールを厳守できるかというと、疑問符が付く。
「NBAや全豪では、スタッフや関係者を含めて完全なバブル状態だったから感染を抑えられた、という見方もできます。さらに、世界中から多くの人が集まるなか、全員がルールを徹底できるかというと、かなり怪しいでしょう。菅義偉首相は、ルール厳守を求めて、違反者は国外追放も辞さないと明言していましたが、現実的には難しいでしょう。どこまでいっても100%万全とはならないでしょうが、果たして70%や80%まで持っていけるのかというのも、かなり懐疑的な目で見ています」(同)
日本史上最多の金メダル獲得の可能性も
今大会では、選手の家族や親族は原則として来日不可となっている。だが、“関係者”という爆弾が、コロナ感染の引き金になりかねないと危惧する声もある。JOC(日本オリンピック委員会)関係者は次のように言う。
「“IOC(国際オリンピック委員会)ファミリー”という謎のブルジョアたちが来日予定ですよね。果たして、このコロナ禍で彼らを招待して、高級ホテルで接待する意味はあるのでしょうか。選手たちは、ある程度ルールを守るとみていますが、その一方でIOCファミリーや関係者がおとなしく競技場の往復だけで満足するかというと、とてもそうは思えません。ホテル内のパーティーや、都内に出てどんちゃん騒ぎなどをしないとも限りません。もし、そこでクラスターが発生して、オリンピック後に感染者爆増ということになれば、国民から厳しい目線が向けられるでしょう。そうなると、とても『オリンピックが成功した』とはいえません」
組織委員会が発表するガイドラインは、このタイミングになっても、まだ完成に至っていない。観客数の正式発表もされていないなか、さまざまなリスクを背負いながらの開催になることは間違いないだろう。ボランティアスタッフの辞退も相次ぎ、医療従事者の確保についても、観客数などが決まらなければ正確な数字を把握することは困難だ。
「選手に対しての医療従事者は確保できていますが、大挙して来る海外メディアや有観客になった際の医療機関までとなると、医療機関に、より多くの協力を仰いでいく必要が出てくるでしょう。一番恐れているのは、メディアや観客のなかでクラスターが起きた際に、対応が後手後手となり、悲惨な事態を招かないかという点ですね」(同)
そんな状況下でも、ほぼ間違いなくオリンピックは開催される。今回、JOCは「30個の金メダル」を目標に掲げている。メディアのなかには、この個数を大きく上回るのではないか、と楽観的な論調もある。日本を除く参加国の選手は、コンディション不良や調整不足、準備期間が足りないなど、明らかにパフォーマンスを落とすとみられているからだ。
「柔道やバドミントン、卓球、体操、競泳、レスリングといったメダル獲得が有力視される競技以外でも、日本の金メダルは相次ぐでしょう。場合によっては、陸上短距離やサッカーといった、明らかに世界との壁がある競技での金メダルがあっても不思議ではないというくらい、諸外国とのコンディションの差は出てくるとみています。間違いなく日本史上で最多の金メダル数となるでしょうが、それは公平な結果といえるのでしょうか。各社はすでにどういった論調でメダル獲得を報じるか、ということにも頭を悩ませています」(前出・全国紙オリパラ担当記者)
仮に日本史上最多の金メダルを獲得したとしても、それが“もっとも素晴らしいオリンピック”というには、ほど遠い結果となるかもしれない。オリンピック成功の是非は、閉会後の感染者数の増減にも大きく左右されるだろう。
(文=編集部)