警察当局が、現在しきりに口にする話があるという。それは、神戸山口組の若頭が交代するのではないかという噂についてだ。捜査関係者の中には、具体的な交代の日程まで示して、来る執行部会の議題になるのではないかと話す者もいる。
もちろん、事の真相は不明で、あくまで噂の領域を超えることはない。だが、そうした噂が立ったのには理由があったというのだ。
それは、7月9日に開催された神戸山口組の定例会でのことだ。現在、情報漏洩対策を徹底させている神戸山口組では、そこでどういった議題が上がったのか漏れ伝わってくることはない。そんななか、注目されたのが欠席者だった。定例会に欠席したことが確認された親分衆は4人。そのなかに、神戸山口組・井上邦雄組長と同組若頭である俠友会・寺岡修会長の名前があった。
「当初、定例会と同日に友好団体が神戸山口組を訪ね、その対応に井上組長と寺岡若頭があたる必要があったため欠席したのではないかと噂されていた。だが、社会不在中ならまだしも、トップと若頭が揃って定例会を欠席するということがあるだろうか。そうした背景から、組織内で何か動きがあるのではないかと囁かれ始めた」(地元捜査関係者)
確かに、その定例会では、若頭交代の布石ともとれる人事発表が行われている。それは先月、井上組長の後を継承し、山健組の五代目に就任したばかりの中田浩司組長が、神戸山口組においても最高幹部である若頭補佐に昇格したことが発表されているのだ。これについて神戸山口組関係者はこのように話す。
「五代目山口組組長である渡辺芳則親分が、まだ山健組で二代目組長を務めていた頃に、渡辺親分の運転手を務めていたのが中田組長だ。いうならば、山健組の生え抜き中の生え抜き。その後、中田組長はめきめきと頭角を現し、渡辺親分が興した健竜会の五代目を継承し、四代目山健組若頭へと就任。ついには井上親分から山健組の五代目組長を託された。ゆくゆくは神戸山口組を背負っていく立場になるはずだ」
六代目山口組分裂以降、もっともその動向が注目されたのが山健組だろう。山健組が立ち上がったからこそ、それまで不可能といわれた、六代目山口組を割って出る勢力がまとまり、神戸山口組の設立を可能にしたとさえいえる。それだけに、最高幹部のひとりとなった中田組長に組織内から寄せられる期待は否が応でも高まるはずだ。現在、神戸山口組では舎弟頭という重役も空席の状態が続いている。若頭候補は、中田組長を含めて複数名前が挙がっているとされるが、果たして捜査関係者が噂するような動きは実際にあるのだろうか。
伊藤リオン氏をめぐる御通知
一方で、業界関係者に出回ったというある“御通知”が話題になっている。
それは、六代目山口組系大同会系列組織から発行されたと見られる除籍状で、そこに名前が記されているのが、市川海老蔵事件などで名を馳せた元関東連合の伊藤リオン氏だったのだ。リオン氏といえばつい先日、沖縄県で地元組織との乱闘の模様がSNS等で拡散されるなど話題を集めたばかり【参考記事「海老蔵暴行事件・加害者のその後」】。今回の御通知の流布は、そうした乱闘騒動に起因するものだろうか。事情に詳しいジャーナリストは、このように分析する。
「もともとリオン氏は、今回通知が出された組織から破門されていたと聞いています。そして先日の乱闘騒動。対峙した組織は、敵味方問わず、破門者であるリオン氏を交えてトラブルになったという構図になります。本来、ヤクザ社会ではどれだけ分(言い分)がある話だったとしても、組織から処分されている人物がトラブルに加担していれば、それだけで筋を違えていることになります。ヤクザ社会では、処分された人物との交友を禁じているからです。現在リオン氏は、沖縄県に移住しているという噂もありましたから、それらを含めてリオン氏の処遇が話し合われた可能性があるのではないでしょうか。結果、その話し合いが円満に解決し、破門を解かれて除籍に切り替わったのではないでしょうか」
簡単にいえば、リオン氏を破門者のままにしておくと、彼に関与する組織はすべて筋違いのことをしていることになってしまう。一方、除籍とは、組織から追放されるという制裁処分のひとつである破門とは異なり、その組員の意志を踏まえて、組織側が脱退を認めるというものでもある。ある組織が除籍者と関わりをもっても、筋を違えたということにはならない。
今回、破門が除籍へと切り替わったということであれば、このジャーナリストが解説するように、所属していた組織と何かしらの解決を見たからこそ、破門を解かれたといえるだろう。
ちなみに、六代目山口組分裂以前は、破門から除籍に切り替える場合、形式的であったにせよ、破門を解き、いったんは組織へと復縁させた上で、すぐさま除籍へと切り替えることが義務付けられていた。
SNSの普及で、第三者によるニセの御通知や怪文書が作成されて出回ることも、決して少なくはない。今回の御通知にしても、確かなものであると断定することはできないが、沖縄県での乱闘動画同様に、業界関係者の間で拡散され、再び話題を呼んだことは間違いない。
表面上は、静寂に包まれているかのように見える六代目山口組の分裂騒動。だが、香川県では、神戸山口組系傘下組織から六代目山口組系傘下組織へと移籍したと噂される組幹部の車が燃やされるという事件が起きたり、相変わらず3つに分かれた山口組同士での切り崩し工作は活発化している。そして水面下では、さまざまな情報が日々錯綜している状態だ。そうした状況が火種となるのか、それとも和平へとつながっていくのか、現在は予想することができない。
(文=沖田臥竜/作家)