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中長期試算の解釈で特に重要なのは「成長率の前提」である。1995年度から2016年度において、名目GDP成長率の平均は0.3%しかないにもかかわらず、低成長シナリオのベースラインケースでも名目GDP成長率は1.6%と設定している。
このような楽観的な成長率の前提で、本当に適切な財政再建のシナリオを検討できるだろうか。今回の中長期試算も、前回と同様、高めの成長率を設定することで、図表2のとおり、国・地方の公債等残高(対GDP)は一時的に縮小していく姿になっている。
(出所)内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2018年7月9日経済財政諮問会議提出)から抜粋
しかし、公債等残高(対GDP)の長期的な見通しは異なる可能性も高い。長期的な見通しは、ドーマーの命題を利用すると簡単に計算でき、財政赤字(対GDP)の平均的な見通しがq、名目GDP成長率の平均的な見通しがnであれば、公債等残高(対GDP)は将来的に「q÷n」の水準に向かって収束していく。例えば、財政赤字(対GDP)がq=3%、名目GDP成長率がn=2%のとき、「q÷n=1.5」で、公債等残高(対GDP)の収束値は150%となる。
図表2のとおり、中長期試算の最新版では、低成長シナリオのベースラインケースにおいて、2027年度の財政赤字(対GDP)は2.8%と予測する。名目GDP成長率の平均的な見通しが0.3%ならば、公債等残高(対GDP)の収束値は約930%(=2.8%÷0.3%)にも達してしまう。財政の持続可能性を確保するためには、財政赤字(対GDP)を一定水準まで抑制する必要がある現実を示す。
繰り返しになるが、内閣府の成長率予測の的中確率は25%しかない。予測と実績の乖離に関する検証や改善方法を検討する必要があることはいうまでもないが、楽観的な成長率の前提に依存することなく、慎重かつ適切な財政再建計画の検討を期待したい。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)
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