「おととしの12月15日に日ロ首脳会談をやって、翌16日に共同記者会見が行われて、プーチン大統領はソ連、ロシアを通じて唯一のトップリーダーとして、1956年の『日ソ共同宣言』の有効性を認めてくれた。これは『法的な義務がある』と明確に言ったに等しい。ソ連時代から、領土問題に関して文書で残っているのは『平和条約締結後にソ連の善意で日本にまず2島を引き渡しますよ』という話なんです。これに関しても、プーチン大統領は明確に言っておられますので、いずれにしても話し合いで解決するということは一貫しております」(同)
北方領土問題をめぐっては、4島一括返還か2島先行返還かで日本政府も大きく揺らいだ過去がある。2島先行返還を主張してきた鈴木氏にとっても、忸怩たる思いがあるという。
「『日本国政府の北方領土政策のスタンスは4島一括返還だ』と言う人がいますが、これは間違いですから頭をクリアにしてください。旧ソ連時代、ソ連は『日ソ間に領土問題はない』と言ってきたんです。だから日本は『一括返還』、さらに『即時』と言ったんです。ところが、91年にソ連が崩壊して、自由と民主のロシアになった。エリツィン大統領は『戦後の国際社会の枠組みは戦勝国と敗戦国に分けられている。私はその垣根を取っ払う。北方領土問題については話し合いで解決する』と言った。私は『2島先行返還でけしからん』と国賊扱いされましたけどね。私の言うとおりにやっていれば、とっくに北方領土問題は解決できていたと思うので、私にとっては悔しい思いがあります」(同)
元島民たちの「3つの願い」
今や、北方4島の元島民の方々の平均年齢は83歳だという。その島民たちの願いは「大きく3つに集約される」と鈴木氏は語る。
「歯舞、色丹、国後、択捉に住んでいた島民たちの願いは『自由に島に行けるようにしてほしい』ということです。今は政府が調達している『蝦夷ピリカ』という船で墓参でしか行っていません。安倍さんがおととしの12月にプーチン大統領にお願いして、飛行機での墓参が去年から1回できるようになりました。
2番目は、ひとつでもいいから島を返してもらうこと。3つめは、国後島周辺の海を使わせてもらうことです。魚が捕れるかどうかで生活にかかわりますからね。特に、国後島は羅臼、標津町、別海町、根室市から朝に夕に島が見える。先祖の墓がある島が見えるのは大きいんです。島民の方々も、返還後の島に住む人はひとりもいません。『自由に行ければいい』というのが一番の気持ちなんです。平均年齢83歳ということから考えても、ここは乾坤一擲、安倍総理に勝負していただくしかないと思っております」(同)
今年9月に予定される22回目の日ロ首脳会談。プーチン大統領と北方領土問題で対峙する日本側の首相は、果たして誰になるのか。9月の自民党総裁選挙をめぐっては「8月前倒し」の声も聞かれるが、首尾よく安倍首相の3選となるのだろうか。
(文=兜森衛)