新型コロナウイルス感染症の猛威が続いている。8月22日現在の東京都内の累計陽性者数は31万2262人、新規陽性者は8月13日の5773人をピークに、この1カ月で爆発的に増加した。国や自治体のワクチン接種が急速に拡大しているものの、手遅れになって発症する事例は枚挙に暇がない。
当編集部は、2回目のワクチン接種直後にコロナを発症した50代会社員男性に話を聞いた。病状には個人差があり、この経験談によってすべての症例を語ることはできない。一方で、同氏が語る生々しい経験談のそこかしこに、政府のコロナ対策の疑問点や社会的な課題が透けて見えてきた。
果たして、ワクチン接種後にコロナを発症するとどうなるのか。また患者から見た医療従事者たちの過酷な現状や後遺症のつらさはどのようのものなのか。同氏の体験談を以下にまとめた。
「目が覚めたら酸素呼吸器をつけていた」
7月某日に2回目のワクチン接種を受けました。モデルナです。翌日に40度を超える高熱出たのですが、当初は副反応だと思っていました。
しかし、3日たっても熱が下がらない。地元の病院に行ったところPCR検査を受けることになりました。検査結果は週明け月曜日にならなければわからないとのことでしたが、担当医師の判断でCT(コンピュータ断層撮影)を撮ったところ、肺が真っ白でした。
仕事はテレワークでしたし、飲み会などにも参加していません。感染経路は不明でした。後に医師に聞いたところ、「2回目のワクチンを接種した段階ですでに陽性だった可能性が高い。とはいえ、接種1回目の効果は継続中であったはずなので、ラムダ株によるブレークスルー感染ではないか」とのことでした。
すぐに救急車を呼んでもらい、そのまま大きな病院に入院することになりました。診断はコロナ感染症の中等症。すぐに完全隔離された個室に担ぎ込まれたのですが、以降4日間の記憶はありません。レムデシビルの投与が行われていたようです。目が覚めたら、酸素呼吸器をつけていました。病院では中等症以上の感染者は個室、軽症になると大部屋に移る方式でした。
意識が戻ってからは息苦しさと発熱で、満足に眠ることもできませんでした。ずっと先の見えないマラソンをさせられ続けているかのような苦しさでした。
食事ものどを通りません。無味、無臭になっていて、病院のほうでおかゆや麺類などを用意してもらったのですが、まったく手を付けられず、点滴で栄養補給をせざるを得ませんでした。レムデシビルの投与は1週間続き、その間、点滴をしていたので両腕の血管は青黒くなり、注射痕だらけになってしまいました。最終的に症状が軽くなった8月16日まで入院は続き、わずか2週間で体重は13キロ落ちました。
自宅に帰ると、足腰も弱くなってしまい階段の上り下りができなくなっていました。現在も血栓が消えておらず、倦怠感も残っています。しかも、無味・無臭です。精密検査をしていないので、はっきりとしたことは言えないのですが、視力が下がったように感じます。加えて不眠症になってしまいました。強い倦怠感から今も眠りはすごく浅い状態です。
会社からは1カ月の自宅療養を申し付けられ、この間、傷病休暇扱いとなりました。基本給以下になってしまうので、ローンなどの支払いを考えると経済的にも厳しいです。
医師などの話によると、人工心肺装置ECMO(エクモ)を使用しなければない患者は入院1カ月、職場復帰までにリハビリで2カ月はかかるとのことでした。
患者の飲み物の買い出し、トイレ掃除などで看護師の仕事は3倍に
入院中、食べ物を口にできない一方、のどはすごく渇きました。基本的に、個室からは一歩も出られないので、銀行の振り込みなどはもちろん、病院内の自動販売機などに飲み物を買いに行くことすらできません。
申し訳ない気持ちになりながらも、朝食の後に担当の看護師さんが「飲みたいもの」を聞いてくれるので、お願いするしかありませんでした。
看護師さんにお話しを聞いたところ、「コロナ禍で看護師ひとりあたりの仕事量が3倍に増えた」と言っていました。看護師さんはただでさえ、酸素呼吸器のアラーム対応など24時間体制で患者に付きっきりの状態です。また患者1人に対応するたびに、医療用ガウンやマスクなどを一回一回捨てて、着替えなければなりません。そして、前述のような飲み物の調達のようなこまごまとした患者の世話に加え、個室備え付けのトイレやシャワー室の掃除などもしなければならないということでした。感染拡大の危険性があるので、専門業者に委託できないそうです。
また日々の業務に加え、時々刻々と移り変わるコロナの新情報に関しても学ばなくてはいけないとのことで、出番明けでも夜遅くまで勉強会に出席したり、資料の読み込みなどをしたりしなければいけないとのことでした。
ある医師は「去年の今ごろとまったく状況が違い、現場は殺気だっている」と話をしていました。コロナ対応で多くの看護師が割かれています。そのため、脳梗塞や心筋梗塞などの突発症の患者が運びこまれても、手術をする際に看護師を確保できなくなりつつあるとのことでした。まさに、かつて医師会などが危惧をしていた医療崩壊の状況が現出し始めているということを強く感じました。
コロナ陽性で意識不明の間、家族は……
私のコロナ陽性が発覚後、妻も陽性が発覚し入院。中学生と高校生の息子も陽性で、自宅療養となりました。一家全滅です。しかも私は意識不明で、5日間は子どもたちと連絡も取れませんでした。その間、保健所はパルスオキシメーターを自宅に届けていたようで、子どもたちに「異常値になったらすぐ連絡するよう」に伝えていたそうです。
一方、自宅療養中に保健所などから支給される食糧などは、申請が必要だったため子どもたちだけではできず、配布はされませんでした。
目に見えずとも感染者をさいなみ続ける後遺症
「ワクチンを打っておけば大丈夫」との主張をよく見かけますが、本当にきつい病気です。テレビなどでは軽症者の事例は多く報道されている一方、中等症以上の患者の状態に関する情報はごくわずかです。個人差もあり、多様な症状が出ためか、後遺症に関する理解もあるようには思えません。「血が出ている」といった“外見上のわかりやすさ”もなく、今後、コロナの後遺症に苦しむ人たちを社会がどのようにケアしていくのかは大きな課題になるなと思いました。
関連して、一度、コロナを発症してしまった患者は免疫力が高まり、当面は感染しないこと、他の人に感染を広げないこともわかっているのですが、コロナ陽性者に対する偏見は強いと思います。
また、「Go Toトラベル」や東京オリンピックなどに回す国の予算を、少しでも多く、疲弊する医療現場に回してほしいと実感しました。東京五輪・パラリンピックには、延べ7000人の医療従事者が投入されると聞きました。その人的リソースを、医療現場に回してほしいと思います。
またマスクの“正しい着用の仕方”をすべての人に確認してもらいたいと感じています。基本的なことですが、最近は“手指消毒をすればオーケー”という人も増え、感染症対策がおざなりになっているのではないかと思います。人混みを避けることはもちろんのこと、ひとりひとりが、あらためて自分自身の感染症対策を見直すべき時期に差し掛かっていると思います。
(構成=編集部)