「東京五輪の開会式では、制作メンバーの過去の問題発言が次々と明るみになり、前日に急遽、楽曲が差し替えになるなど混乱の極みとなった。それを受け組織委は、パラリンピック開閉会式の制作メンバーを非公開にするという手段に出たわけですが、彼らのなかにはパラの開会式に携わったという実績を本業で仕事を広げることにつなげたいと考えている人もいるでしょうから、一律に非公開とすることには疑問の声もあります。そもそも、国民的な祭典に協力してくれたクリエイターたちの名前を伏せるなんで不自然ですし、彼らに失礼な話です。
開会式の演出内容がどのような内容なのか、組織委内でも担当セクション以外にはまったく伝わってこず、上の警戒ぶりが伺えます」(東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会関係者)
「五輪の開会式なんて、どんな内容でも批判はあがるものですが、今回の酷評ぶりは予想以上でした。パラ開会式の準備は2年前から始まり五輪前にはがっちり固まっており、五輪開会式への反応を受けて大きく変更されることはありません。また、パラ開会式も制作の実行部隊は、五輪と同じく業務委託先である電通なので、基本的には似たような内容になるのでは。五輪から一転して絶賛されるような展開は誰も予想しておらず、組織委のスタッフはみな“消化試合”というムードです」(別の組織委関係者)
24日、東京パラリンピックが開幕し、同日夜には開会式が行われている。全国的に新型コロナウイルス感染拡大が続き、開催地の東京都ではこの日だけで新規感染者が4220人に上った。医療逼迫が叫ばれているなかでの開催となり、厳戒ムードが漂っている。
五輪の開会式をめぐっては、準備着手当初から直前まで波乱が続いた。
2018年に狂言師の野村萬斎氏が演出総合統括に就任したが、20年12月に野村氏を含む演出企画チームは解散となり、野村氏は辞任。代わりに元電通のクリエイティブ・ディレクター、佐々木宏氏が総合統括に就任したが、タレントの渡辺直美を起用した“空から降り立つオリンピッグ”という侮蔑的な企画を提案していたことが発覚し、佐々木氏も辞任。さらに、制作チームのリーダーだった演出家のMIKIKO氏が、組織委の上層部によって辞任に追い込まれていたことも発覚。MIKIKO氏はTwitterで、本人に連絡がないままに別の演出家に交代させられていたことなどを明かした。
五輪開会式、多くの著名人からも酷評
開幕が目前に差し迫った7月に入っても、問題が続出。開会式の楽曲担当、小山田圭吾氏(コーネリアス)が過去に雑誌のインタビュー記事で、同級生の障害者に“いじめ”を行っていたことを自慢するかのように告白していたことが発覚し、小山田氏は辞任。
開会式を翌日に控えた22日には、ショーディレクターを務める小林賢太郎氏がお笑いコンビ「ラーメンズ」時代のコントでナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)をネタにしていたことに批判が広まり、組織委は小林氏を解任処分とした。
そして実際の式の演出内容に対しても、インターネット上のみならず、多くの著名人から酷評があがる結果となっていた。
「開会式直前の相次ぐ辞任劇では、武藤敏郎事務総長はじめ上層部は、“一部のネットユーザが騒いだせいで、とんだ迷惑をこうむった”くらいにしか捉えていない節がある。だから今度は“制作陣の名前を隠せば、批判も起きない”という安易な発想に傾いた。
実際に武藤さんも小山田の騒動が持ち上がった後、一度は会見で『引き続き貢献してもらいたい』と辞任を否定しており、なぜこれほど世間で騒がれているのか、いまいちピンときていないようにみえる」(前出・組織委関係者)
「この開会式オリンピックのより断然いい!!」
そんななか、24日20時に開会式がスタート。オープニング映像が流れた後、タレント・はるな愛を中心にダンスが繰り広げられ、全盲のピアニスト・辻井伸行さんの曲が流れる中で国旗の入場が行われた。国旗掲揚・国家斉唱後は、“パラエアポート”という名の空港を舞台に障がいのあるパフォーマーたちによるステージが展開され、選手入場へと続いたが、SNS上では以下のように絶賛の声が多数あがる一方、厳しい声も散見される。
<なんかスケールが違う、見ていてワクワクするよ、子供も集中してる。サーカス?舞台?とにかくスゴいよ!>(原文ママ/以下同)
<パラの開会式かっこよすぎやん。なんやったんオリンピックの開会式>
<オリンピックよりずっとクオリティ高い!リオ五輪閉会式の内容引き継いで日本らしさ出してる>
<コンパクトで分かりやすい演出、そして映像や照明の使い方凄く良かった!国歌斉唱の方も清らかな歌声で素敵でした やっと今の日本らしいカッコいい映像が見れて嬉しかったよおぉ この開会式オリンピックのより断然いい!!>
<パラの開会式が素直にリオの閉会式からアートコンセプト受け継いでる感じがする>
<日本らしさが全くなく、スケールも小さすぎて恥ずかしい>
<これ何? またダイバー中抜き日置が仕切ってんの? 日本の文化がない どこの国なんだ>
<またオリンピックの開会式みたいに、パフォーマーが出て来て大騒ぎしてるだけで、全く日本らしさが無い。これ、意味無いじゃん>
“五輪に比べれば全然良い”という評価を得やすく
広告代理店のクリエイターはいう。
「冒頭の空港のパフォーマンスは、やはり五輪の開会式と閉会式でも指摘されていたように、とにかく大勢の人たちがあっちこっちでバラバラのパフォーマンスをやっているという印象で、その意味では“悪い面”が出ていて“また、やらかしてしまった”というのが率直な感想。パフォーマーたちが“ねじ”と“ぜんまい”に扮して風を起こすというコンセプトも、意図がよくわからず、巨大な装置の数々も美しさに欠けていて、“五輪の開会式と同じような人たちが手掛けたんだろうなあ”という印象しかない。
再び日本のエンターテインメント面の発想の乏しさが世界に晒され、恥の上塗りをしてしまった。ただ、五輪と比べて冒頭のパフォーマンス部分の時間がかなり短く、結果的に見ている側に“コンパクトにまとまっている”という印象を抱かせたのではないか。また、五輪の開会式があまりに評判が悪かったので、“五輪に比べれば全然良い”という評価を得ることにつながっているのではないか」
全国紙記者はいう。
「企業からのスポンサー料やIOCの負担金などで賄われる組織委の予算は約7000億円。これ以外に国と東京都が支出する費用は総額3兆円に迫り、コロナ対応などでさらに増える可能性も指摘されている。もちろん原資は国民と都民の税金ですが、五輪とパラが終わって人々の熱狂が冷めれば、今度はコロナ禍の最中に五輪に巨額の税金を費やしたことに批判の矛先が向かうのは明らか」(全国紙記者)
果たして東京五輪・パラリンピックは、日本にとって後世に誇れるレガシーになったのだろうか――。
(文=編集部)