「分断」という言葉は、今の世界を表現する上でもっともホットなトピックだろう。2016年の2つの象徴的な出来事――アメリカにおける大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選したこと、そしてイギリスが国民投票によってヨーロッパ連合(EU)から離脱を決めたこと――は、世界で起きている「分断」を私たちにまざまざと見せつけた。
しかし、日本にいる限りは、世界の「分断」がいったいどこまで進んでいるのか見えにくい部分があるだろう。世界中を渡り歩き、その社会の変化を見つめている高城剛氏は、『分断した世界』(集英社)でアメリカやEUの「分断」の姿を丁寧にレポートしている。
本連載「ここまで世界は『分断』していた」では、4回にわたってアメリカとEUにおける「分断」の姿を、本書からご紹介していく。第2回は、難民問題や独立問題など何かと話題の多いEUに切り込んでいく。
「難民」と「経済」に悩まされるEU
まず、高城氏が述べるEUにおける最大の問題が「難民」と「経済」だ。
2015年、EUに前年の倍となる約130万人の難民が殺到し、大きな問題となった。かつてないほど多くの難民を受け入れたEUだったが、国によって対応に温度差があったのも事実だ。
一方、経済にはユーロ圏内の国々の共倒れの危険性が潜んでいる。サブプライム・ショック以降の世界的な景気悪化の影響を受け、各国でバブルが崩壊。金融機関も資金調達が難しくなり融資姿勢を厳格化し、内需の落ち込みから企業の業績悪化と雇用調整が進んだ。
そして、2009年に起きたギリシャの債務危機は、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリアなどに飛び火。ヨーロッパ全体の金融システムをも揺るがす事態となっている。
「共通通貨を持つユーロ圏内の結びつきは、より分かち難いものになっている」と高城氏。どこかの国の国債が焦げつけば、それはユーロ圏の全政府共通の債務となる。まさに、一蓮托生の状態といえるのだ。
フランスとスペインに起きた“異変”とは
EU内で起きている「分断」は、国と国との間だけではない。それぞれの国の中でも起きている。
たとえば、フランスでは2017年4~5月に行われた大統領選挙に大きな注目が集まった。それは、極右政党とされる国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が人気を集めていたからである。
ルペン氏はフランス国民の利益を第一とし、EUやユーロからの離脱を主張。そして、移民・難民の大規模入国に反対する立場を取っていた。結果的に前経済・産業・デジタル大臣で中道派のエマニュエル・マクロン氏が当選したが、EUからの「独立」を主張していたルペン氏への支持は、フランス国内で無視できないものになっている。
『分断した世界』 アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ……世界はさらに「壁」で隔てられ壊れていく。分断最前線で見た、世界が直面する真実! 終焉を迎えたグローバリズム。世界はさらに崩壊していくのか? 著者・高城剛が自らの目と耳で分断の現場を徹底ルポ!