元山口組系組長という異色の経歴で評論活動を行う猫組長。投資家としても超一流の同氏が、株式投資入門書として「目から鱗の良書」と評価する1冊を紹介する。その著者は意外にも、K-1チャンピオンの久保優太だった。
K-1と同じく、テクニカル重視の投資術
格闘家という職業の中でも、K-1など総合格闘技は特に興行色が強い。激しい打撃戦は観客を魅了するが、それゆえ選手生命は短い。
K-1チャンピオンの久保優太は1987年生まれの30歳。彼もまた選手としての限界を感じ、引退を意識している。
ボクシングもそうだが、打撃系格闘技の選手には、喧嘩の強い不良少年時代がイメージされる。しかし、久保から不良少年や喧嘩といったイメージは微塵も感じられない。甘いマスクに優しい笑顔。穏やかな喋り方は、どこかあどけない。
だが、リングの上で見せる俊敏で的確な打撃と軽快なフットワークは、まるで別人のようだ。このギャップこそ「微笑みスナイパー」というニックネームの由縁である。
彼と私の共通点は株式投資だ。久保は格闘家でありながら投資家という顔を持つ。そしていつしか「闘う投資家」というニックネームでも呼ばれるようになった。
久保が株式投資を始めたのは2013年のことである。アベノミクス効果で、日経平均は前年末1万395円から1万6291円と56.7%の上昇を見せた年だ。彼は100万円の資本から株取引をスタート、途中で資本の追加を行いながら、約1年半で1億円の利益を出すことができた。いわゆる「億り人」の仲間入りである。
アベノミクスによる市場の堅調さもあっただろう。しかし、株式投資は運だけで成功できるものではない。そこには何か成功する理由があったはずだ。その理由は、彼が出版した本を読むことで知ることができる。9月19日に発売された『K-1チャンピオンの億を稼ぐ株式投資術』(双葉社)がそれだ。
本書は株式投資について初歩の初歩をわかりやすく解説している。これから株を始める人にはもってこいの内容だ。私の印象に残ったのは、投資手法そのものより、彼のお金に対する考え方である。
久保がこれまで歩んできた人生は、お金にまつわる苦労とトラブルの連続であった。小学生の頃、彼は両親の離婚を経験して母子家庭となる。母親は再婚するが、新しい父は事業に失敗して失踪。家には借金取りが押し寄せ、耐えられなくなった母親も家を出る。
この頃、久保は高校生でありながらも、キックボクサーとしてプロデビューを果たしていた。その収入で弟を養いながら高校に通い、キックボクシングの練習に励んだ。この不遇な少年時代を通して、彼の金銭哲学は培われたのだ。
「お金が無いと何もできないんだな」
こうして久保は、お金の大切さを知ったのである。
キックボクシングから総合格闘技の世界へ移る時にも、金銭トラブルに見舞われた。それは、決して久保本人の責任ではない。金の卵を産むニワトリを巡る、大人たちの欲望に巻き込まれただけである。
K-1チャンピオンになってからも、彼の脳裏には絶えずお金に対する不安があったという。それは、将来に対する不安でもあった。格闘家の選手生命は短い。自分が他の選手に比べ、身体能力が優れているわけではないことを自覚していたからだ。
久保の格闘家としての持ち味は天才的なディフェンスと、圧倒的なテクニックである。これは彼の株式投資にも生かされている。本書でも、彼がいかにテクニカルを重要視しているかがわかるだろう。
投資ブームの現在、巷には投資系の指南本が溢れている。そのどれもが似たり寄ったりの内容で、ともすると自慢話に終始したものが多い。株式投資の上達に必要なのは、基礎学習とルールの徹底順守、そして失敗の積み重ねである。だが、原因を検証できずに、ただ失敗を繰り返していたのでは、成功へ転嫁できるわけがない。その上、投資での失敗は経済的な損失を伴う。
本書には久保の失敗談も書かれており、それを参考にするだけで一定の損失は防げるはずだ。株式投資の初心者が最初に目標とすべきは、損失を出さないことである。そのためにも、他人の失敗例を知ることは有意義な勉強なのだ。
久保は株式投資によって年収2億円を実現した。その手法と彼の投資哲学を余すことなく本書で披露している。読んでみると「目から鱗」の良書であった。これから株を始めようという方には、是非読んでもらいたい一冊である。
(文=猫組長/評論家・元山口組系組長)