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「5億円横領された社長」に聞くミッキーハウス事件の裏側…経理担当者の手口とは

構成=編集部
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「gettyimages」より

 相変わらず後を絶たない業務上横領事件。9月だけでも、ギャンブルにおぼれた警察官が逮捕され、元弁護士が懲役2年2カ月、元司法書士は懲役5年6カ月の実刑判決を、それぞれ言い渡されている。

 なぜ、このような事態が続くのか。代表を務めていた会社の経理担当者に15年間で約5億円を横領され、自身も法人税法違反の容疑などで執行猶予付きの有罪判決を受けた経緯を『5億円横領された社長のぶっちゃけ話』(清談社Publico)に綴った神行武彦氏に聞いた。

事件化している業務上横領は氷山の一角?

――業務上横領事件は、官民、規模の大小を問わず、常に報道されている印象があります。億単位のケースも珍しくありません。警察庁の「犯罪被害者白書」によると、業務上横領事件は年間1000件くらいで推移し、減る気配はないようです。

神行武彦氏(以下、神行) 実際には、もっとたくさんあると思いますよ。『5億円横領された社長のぶっちゃけ話』を出したのは今年の3月ですが、何人もの知り合いから「実はウチもやられた(横領をされた)」と連絡をもらいました。ほとんどが中小企業の経営者で、身内に経理を任せているケースですね。億単位の被害を受けていた会社もあります。経営者としては、家族が逮捕されるのは恥だし、自分の責任が追及されるのも嫌なので、表沙汰にしないだけです。

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『5億円横領された社長のぶっちゃけ話』(清談社Publico/神行武彦)

――あえて失礼な質問をさせていただきますが、なぜ気づかなかったのですか?

神行 まぁ私が甘かったというよりほかないけど、従業員50人未満で複数の経理担当者を雇っている会社は、まずないと思いますよ。私も被害を受けてからは税理士と公認会計士に頼んで社内のチェック体制をつくったけど、自分の身にふりかかるまで、ニュースで見る横領事件なんて対岸の火事でした。

 それに、逮捕された経理担当者の栄緑(2019年4月に懲役4年6カ月の判決を受けて服役中)は縁故入社でした。栄の当時の夫で、私の会社に出入りしていた営業担当者からの紹介だったんです。しかも、私の小学校の後輩で、父親も知り合いでした。小さな町で親族も知り合いなら、信用してしまいますよね。

 しかし、栄の姉も含めて、家族ぐるみで私の会社を食い物にしたんです。もちろん、きちんとチェックできなかった当時の税理士にも責任はあるのですが、税理士も「想定外」だったと思います。

横領したカネで建てた「ミッキーハウス」とは

――被害を受けた経緯を教えていただけますか?

神行 詳しくは本を読んでいただきたいのですが、逮捕された栄の「ミッキーハウス」はご存じですか? 一時期、ワイドショーなどでよく取り上げられていましたが、家全体にミッキーマウスをあしらっているんです。その家はだいたい4500万円くらいですが、私の会社から横領したカネで買ったと見ています。

 あとは、ルイ・ヴィトンなど高級ブランド品の爆買いですね。ミッキーハウスは私が買い戻したのですが、絵に描いたようなゴミ屋敷でした。生活ゴミに混ざって、高級ブランド品の空き箱や空き袋がたくさんありました。中身は判決確定の前に売り飛ばしたようです。

――「ミッキーハウス」は、かなり話題になっていましたね。なぜそのような横領が可能だったのでしょうか?

神行 お話ししたように栄は地元の人間ですし、1999年の入社当初は手書きだった会計書類をパソコンの会計ソフトでの処理に移行するなど、会社に貢献していた面もあったので、信用してしまったんです。

 ほかの従業員は会計ソフトなんてまったく使えないので、不正はやり放題でした。すぐには発覚しない福利厚生の積立金を勝手におろしたり、自分が嫌いな従業員のボーナスを勝手に減額したりしていたんです。平均すると15年間で月に100万円くらいは食われていた計算になりますが、すぐにはわからないように帳簿も書き換えられていました。

――どのようなきっかけで発覚したのですか?

神行 最初に気づいたのは息子の妻です。経理の仕事を手伝ってもらおうと頼んだら、「お義父さんはほとんど外食しないのに、高級店の領収証がたくさんある」と言われたんです。「そんなバカな……」と思って確認したら、驚くほどの領収証がありました。

 社内で領収証を切れるのは栄しかいないので、問い詰めたら、あっさり認めました。家族ぐるみでステーキや寿司を食っていた上、愛人関係にあった複数の若い従業員とも行っていたのです。

「すぐに返します」と言って泣いていましたが、返せるわけがない。さらに、調べれば調べるほど使い込みの実態がわかりました。判明しただけでも5億円です。私宛てに会社に届いた贈答品もほとんど持ち帰っていましたから、それらを含めればまだあるのですが、そこまで確認できないのであきらめています。

「横領されたカネも課税対象」で社長も逮捕

――それで、刑事告訴されたんですね。

神行 そうです。その後は私自身が逮捕されてしまいました。国税庁としては、横領された5億円は本来は会社の利益であり、課税対象にするというわけですね。これには納得できませんでした。私や会社は横領の被害者なのです。利益として把握していれば、きちんと納税していました。気づかなかったことは悪いのですが、国税庁がここまで非情とは思いませんでした。

――なるほど。課税を恐れて横領被害を申告しない経営者もいるかもしれませんね。

神行 そうです。今でも、ふと「逮捕されるとわかっていたら、私は告訴などせずに、5億円を取られたまま泣き寝入りしただろうか」と思うこともあります。しかし、私は栄とその家族を許せなかったし、今も許せてはいないのです。私の逮捕も、必然だったのでしょう。

 逮捕と有罪判決によって、私は自ら創設した会社を追われ、会社は半年間も公共事業の指名停止を受けるなど、多くのものを失ってしまいました。今も、新たに銀行口座を開いたり、クレジットカードをつくったりすることもできません。何よりも時間を取られましたね。不正をチェックし、弁護士や会社の関係者と打ち合わせをするだけでも大変だったのに、マスコミの取材対応もありましたし、その後は私が42日間も勾留されてしまいました。カネは働けばまた入ってきますが、栄とその家族に無駄遣いさせられた時間は戻ってこないのです。

 高い「授業料」でしたし、「実は自分の懐に入れたのではないか」などと心ない批判も受けましたが、行動してよかったと思っています。そもそも私の逮捕は、栄が検察官に「神行はもっと悪いことをしている」とあることないことを伝えたことがきっかけだったことがわかっています。横領されたカネに対する課税は納得できませんでしたが、納税には応じていますし、それ以外の罪は何もありませんでした。42日間も勾留しておいて、取り調べは1日1時間です。何のための逮捕だったのでしょう。

 ちなみに、私を取り調べた検察官は、あの森友学園の籠池諄子さんの担当で、取り調べ中に面と向かって「クソババア」と言ったそうです。冤罪は、こういう人たちによってつくられるのだと思いました。誰もが、こうした横領や冤罪の被害に遭う可能性はあるんです。

 今回、私や会社の者たちが横領や冤罪によって今でも苦しんでいることを知っていただきたくて、本を出しました。特に中小企業の経営者のみなさんには、他山の石としていただければと思います。

(構成=編集部)

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