注目すべきは2015年の調査でアジアから台湾だけがベストテン入り(6位)したことであるが、その背景にはQODに関する取り組みが早くから実施されていたことがある。台湾では「安寧緩和医療条例」が2000年に成立したことにより、終末期医療を患者が自らの意志で選択できるようになったが、同時にスピリチュアル・ペイン(終末期患者の実存的な悩み)への対処も始まった。
欧米ではチャプレンと称する聖職者(牧師、神父等)が終末期患者のケアに当たっているが、アジアでこの取り組みがもっとも進んでいるのが台湾である。経験を積んだ僧侶(臨床宗教師)が病棟や自宅で医療者と協力して「看取り」に当たるのが日常となっている。このような観点から、台湾では死に方を含めた自分の生き方を自由に選択し満足している割合が多いといえるのではないだろうか。
多死社会日本で国民の幸福度を上げるために
これに対し日本では政府が2013年に初めてQODを高める医療のあり方を考えていく必要性を示したが、前途遼遠である。臨床宗教師については2018年9月現在159名が認定されているが、台湾と異なり医療機関との連携が不足しているなどの問題点が指摘されている。
高齢化率が28%に達した日本は未曾有の多死社会を迎えつつある。2018年の死者数は137万人となり、団塊世代がすべて後期高齢者入りする2025年に150万人を超え、2040年にピークに達する(168万人)との予測がある。2018年の死者数は出生数(92万人)の1.5倍となったが、今後この比率が3倍にまで拡大する可能性がある。
日本では今後、人生前半期の選択の自由度以上に人生後半期の選択の自由度が、国民の幸福度に大きな影響を与える可能性が高いのである。高齢者の死者数の9割以上を占め、がんや老衰などで亡くなるという「長く緩慢な死」が大宗を占めるようになったが、このことは自らの裁量で「死」をプロデュースできる時代になったことをも意味する。
「望ましい死」という概念を掲げて、かつての日本の「看取り」の文化の復活に努めている団体(一般社団法人日本看取り士会)も出てきているが、多死社会日本で国民の幸福度を上げるためには、国を挙げてQODを高めることが不可欠ではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)