維新、呵々大笑――。
「大阪維新の会」の知事と市長が入れ替わり出馬した地方統一選注目の「大阪春の陣」は予想通り、維新の大勝ちとなった。開票結果は市長選が松井一郎(55)の66万に対し自民の柳本顕(45)は48万票。府知事選が吉村洋文(43)の226万に対し自民の小西禎一(64)が125万票と話にならない。
都構想をめぐって公明党が維新と対立。「公明に裏切られた」と維新の2人が今秋の任期満了を待たずに辞職して出直し、選挙に打って出た。4月7日、勝利会見で松井は「大阪の成長、経済のパイを大きくするために府市一体で取り組んできた結果を評価された」、吉村は「都構想の再挑戦に踏み出していきたい」などと話したが、2人は報道陣の「やらせ笑顔」の要求まで笑顔を見せなかった。
公職選挙法の抜け穴を狙ったクロス選挙への批判について筆者に問われた今井豊幹事長は、「当初、批判はあったが選挙戦終盤は、有権者が都構想実現にはこれしかないと理解してくれた。奇策でもなんでもない」と胸を張った。
一方、奇襲に完全に出遅れた自民党。ある幹部は「最後は公明が折れると思った。選挙があると思うべきだった」と悔やんだが、いったい何度選挙をしてきたのか。敗者2人は中央区の合同事務所で会見した。元副知事の小西は「大阪の政治を変えようと訴えたが共感されなかった」。有名俳優に断られて急きょ、担がれた小西の出馬宣言は告示の10日前。知名度もなく、どうしようもなかった。
お坊ちゃま演説
小西は政界に未練はないことを口にしたが、前回の吉村に続いて市長選で松井に大敗した柳本は深刻だ。「仕掛けられて不利な選挙だった」と振り返ったが「政治家としての命脈は消えた」と目を真っ赤にした。大阪自民若手のエースとして関西電力社員から政界へ転じ、自民党大阪市議団幹事長を3期務めて、橋下徹元市長(大阪維新の会前代表)と渡り合ってきた柳本は、今夏の参院選出馬への公認を得ていた。奇襲に「退路を断って」(本人談)出ざるを得なかった。
小西も柳本も高学歴、優秀で真面目な人物だが、いかんせん地味。維新に比べて「何かやってくれそうだ」感が希薄過ぎた。柳本は港区で「都構想なんて、何か大阪がよくなるんではないかなという、ふわっとした期待だけなんです」と演説していた。それでは聴衆は「都構想も悪くないのかもしれない」と思ってしまう。ビシビシと構想を否定してゆくべき場でのお行儀がよいだけの「お坊ちゃま演説」に筆者は首を傾げたものだ。
浪花の有権者は「おもしろそうやんか」で、横山ノックや西川きよしを当選させてきた。かつての吉本新喜劇の人気役者、船場太郎は市会議長まで務めた。しかし経済は喜劇のようにはいかない。大企業の本社は次々と東京へ移り、沈む一方の大阪にあって今回、お祭り好き市民は松井と吉村が2025年の万博誘致を成功させたことも評価した。鬱屈していた市民にとって、かつて橋下の演説が新鮮だったように、今回も松井や吉村の演説を「ハッタリかもしれない」と感じつつも維新に投じたのだ。悲壮感漂うだけの柳本、申し訳ないが表情が暗い小西に魅力はなかった。