その日、神戸市二宮にある神戸山口組事務所には、いつにも増して、報道関係者らが数多く詰めかけていた。
ゴールデンウィークが明けた5月8日に開催された神戸山口組の定例会は、改元後初となるだけではなく、神戸山口組の中核団体「五代目山健組」若頭が六代目山口組系組員に刺傷される事件【参考記事「神戸山口組系・山健組若頭が刺される」】が起こってから、初めての開催となったのだ。
「そのためでしょうか。普段は見かけない一般紙の記者やテレビ局の報道関係者も姿を見せていました。ただ注目を集めた定例会自体は短時間で終了したようで、井上邦雄組長が事務所に到着後、約20分後には最高幹部が二宮を後にしています。この時間から考えても、重要事項について話し合われたということは、ないのではないでしょうか」(ジャーナリスト)
一方で同日、六代目山口組も神戸市篠原にある総本部で定例会を開催させている。
「全国から集まる親分衆の表情に、分裂騒動に対する緊迫したものはなかった。現に定例会終了後には、多くの報道陣が詰めかける中で、司忍(六代目山口組)組長が新神戸駅から帰途に着いているが、その時の表情を見ても、先の刺傷事件や分裂騒動を意識しているようにはまったく感じられなかった」(地元関係者)
両陣営とも、定例会の様子だけみると緊迫感はなかったようだ。ただ、ある組の幹部はこのように指摘している。
「このご時世、何か事を起こそうと思っても、ちょっとした情報が外部に漏れただけで、計画は頓挫し、警察だって黙っていない。なので事件が起きる前というのは、噂すら立たないようにするものだ。もちろん、このまま何も起こらない可能性もあるが、刺傷事件という大きな問題もあったわけだし、水面下ではなんらかの動きが起きている可能性も否定はできないのではないか」
そうしたなかで翌9日には任侠山口組でも、関東甲信越を中心に活動する組織がブロック会議を開催している。
「武闘派組織として知られる竹内組(長野県)で、ブロック会議を開催したようだ。任侠山口組では先日執り行われた盃事も長野県内の石澤組事務所を使用している。今後は長野県に重点を置く運営方針も視野にあるのではないかと、当局も警戒を強めている」(捜査関係者)
平成から令和に改元され、3つの山口組がそれぞれのスタートを切った。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。