大阪市内の児童公園では、風雨を問わず男たちが集まり、マージャン・将棋が行われている。そして、これらはすべて賭けマージャン・将棋だ。その上、参加者のうち何割かは生活保護受給者であり、胴元は暴力団の息がかかっているとの声も聞く――。
そんな情報を基に、大阪市内のある児童公園に向かった。平日の昼日中、普通の勤め人ならば決して児童公園にいるはずもないが、男たちが大勢集まって、マージャンや将棋に興じている。
●法律や常識・マナーを超越した秩序
だが、その場を仕切っていると思われる男が、万札・5000円札・1000円札の束を勘定しているとなれば、これは尋常な雰囲気とは言い難い。
「生活保護の支給日とその後の月初は、かなり賑わいます。近隣住民もこの光景に慣れてしまって……。あまり子どもには見せたくないですね」(近隣住民)
晴れた日は木陰で、雨の日は遊具の下で、マージャン・将棋の類いは行われている。そこには、このコミュニティと縁のない者は寄せ付けない、張り詰めた空気が流れている。
「マージャン? お遊びやがな。お遊び。賭けてるかどうか? そら、言えんな。あのな、あんたもっと世間知らなあかんで。言うてええこと悪いこと、世の中にはあるんや。法律や常識・マナーを超えた“秩序”ちゅうもんが、ここにはあるんや」
マージャンを打ち、疲れて帰宅するのだろうか。この場から離れた男に声をかけてみた。そして返ってきたのが、この言葉だった。
そもそも大阪市内では、不動産業者がホームレスを集め、生活保護受給の手助けを行ったりもしている。不動産業者の側から見ると、かき集めたホームレスたちを自らが斡旋するアパートに入居させ、支給される生活保護費から「手数料」などと称して家賃とは別の収益を得る――というビジネスモデルが成り立っている。
●大阪市職員では対応に限界
もちろん行政の側も、これを看過しているわけではない。すでに各種報道でも伝えられた「生活保護Gメン」と呼ばれる大阪市職員や、各区役所の生活保護担当者、ケースワーカーといった者たちが目を光らせている。だが、その効果はなかなか目に見えない。
なぜなら、大阪市の生活保護関連の部署では、本来、担当できるのは「ケースワーカーひとりに対して80ケース」という原則が守られていないからだ。場合によっては300ケース担当するケースワーカーもいる。
「人手不足。これに尽きます。だからといって、すぐに増員すればいいというものでもない。生活保護行政は非常に繊細な案件が多く、そのためこれに精通した職員が育つにも時間がかかりますから」(大阪市職員)
中には、あまりの多忙ぶりでうつ病を発症するなど、メンタル面での疾患を抱える者もいる。大阪市役所自体の“ブラック企業化”が著しい状況の中、生活保護受給者の日常にまで目が行き届かないのが現状だ。
児童公園で昼日中から札束をひけらかしてマージャン・将棋に興じる男たちが皆、生活保護受給者かどうかはわからない。だが中には、その話しぶりから生活保護受給をしているとにおわせる者もいた。
「もらえるもんもらって、何が悪いんや。わしらをこないしたんは、政治や役所ちゃうんかい。責任は取ってもらわなあかんで」(児童公園でマージャンに参加していた男性のひとり)
この男性と話し終え、座っていたベンチを立つとほぼ同時、40代後半とおぼしき男性が近寄ってきた。目が合うなり左腕を折り曲げ、肘の内側を右手でポンポンと叩きつつ「お兄ちゃん、元気になるもん、あるで」と近づいてきた。この町の地域性が、少しわかった。
(文=秋山謙一郎/ジャーナリスト)