「岸信夫防衛相の暴走ぶりが際立っている」――。ある防衛省幹部は、ロシアによるウクライナ侵攻における岸氏の「ウクライナ支持一辺倒」の姿勢についてこう語る。その代表例が4月19日の閣議後記者会見でのドローンと防護マスク、防護衣の供与をめぐるやりとりに現れているという。
「今般、新たにウクライナ政府からの要請があったことを踏まえて、化学兵器等対応用の防護マスク及び防護衣及びドローンをウクライナ政府に提供することといたしました。
Q:先ほどの装備品の供与ですけれども、ドローンに関しては、どこの自衛隊が使っているどういったタイプのものを提供される予定なんでしょうか。
A:今、どういったものを提供するかについては調整中でございます。
Q:念頭にあるものを。ただドローンということだけが決まっていると。
A:はい。
Q:関連しまして、その装備品を送る先というのは、もうどちらの国か決まってらっしゃるんでしょうか。
A: 周辺国ということで、これから輸送手段等についても調整をいたします。
Q:ドローンというのは化学兵器に対して、どういうふうに使うというのかちょっとイメージが分からないんですが。
A:化学兵器と関係ないですから。自衛隊の保有しているドローンを。
Q:何に使うことを念頭において、送るということなんでしょうか。
A:いろいろな用途があると思います。特に化学兵器を念頭にということではありません。
Q:今回装備品にあたらないというのは、どういう理屈で、市販品だからということでよろしいでしょうか。
A:市販品だからあたらないということですね。
Q:装備品の供与に関してなんですけれども、防護マスクの供与というのは、何を通して何を通さないというのは、機微な情報になるのでなかなか供与は難しいという声も省内、政府内にあったと思うんですけれども、そこの懸念についてはどのようにお考えでしょうか。
A:自衛隊が保有している物の不用品を不用途扱いにして供与すると、これまでと同じ形だと思います。現在、精査中でありますけれども、これに使用される技術の機微の観点を踏まえつつ、自衛隊の任務遂行に支障のない限り提供するということになります。
Q:装備品の関連なんですけれども、1点は、先日、ウクライナの国防相との会談があったかと思うんですが、そちらで供与の要請があったというのかどうかというのが1点と、あとは、装備品3つ防護マスク、防護衣、ドローンそれぞれ全てこれは、防衛装備品にあたらないという理解でいいか念のための確認です。
A:今回、提供については、ウクライナからの要請を踏まえて行ったものであります。装備品にあたるかどうかということは、防護マスクと防護衣はあたりますが、これは前回の決定の時に考え方として含まれています」
ドローン供与に何一つ具体的な中身はなし、防護服も軍人向けか民間人向けか不明
この会見は、1週間ほど前の13日にウクライナ国防相との協議で装備品供与の要請があったことを踏まえたものだ。会見では、自衛隊が保有する市販品のドローンを供与するだけが決まっているが、それ以外は全て「調整中」としている。これについて、前出幹部はこう解説する。
「ウクライナ防衛相との協議では、具体的にどの装備品を供与してほしいという要請がなかったためか、流行りのドローンを供与することに決まったと聞いています。しかし、そもそも民生品のドローンをなぜ自衛隊が供与するのか疑問ですし、『ドローン後進国』である日本の自衛隊が保有するドローンは基本的に欧州製です。ヨーロッパで買ったほうがウクライナ側もより早く入手できるし、実際の製品も高性能のため、本当にどこまで意味がある支援なのかわかりません。
岸防衛相は市販品のドローンだから防衛装備品に当たらないので供与は可能という根拠を提示しましたが、数キロを積めるタイプのドローンは対戦車ロケットの弾頭をつければ自爆ドローンに簡単に改造できます。仮にそれが可能なサイズのものを供与するとしたら、これまでの政策判断や法解釈がなし崩しになる可能性もあり、これほど容易に返答できる問題とはいえません」
さらに、化学兵器対応の防護マスクと防護衣の供与の背景について、別の幹部はこう話す。
「ロシアが化学兵器を使用した疑いがあるという報道のみで決まりました。軍人向けなのか、民間人向けなのかが全く説明されていないのがいい証拠です。自衛隊は海外の独自の情報網を持っておらず、基本的に現地の大使館のみの情報収集で判断している。そこのスタッフが防衛装備に関する知見があるケースは少なく、そのときどきの報道で日本政府が場当たり的に判断している惨状が露見してしまっています」
岸防衛相はひたすらウクライナ支持で前のめり、岸田首相も林外相も制止せず
岸防衛相が「ウクライナ支持」に凝り固まっているため、省内では批判的な声が上がっている。自身のフェイスブックに早い段階から露骨なウクライナ支持のメッセージを発信し続けている以外にも、ロシアがウクライナから侵攻する3日前の2月21日にポーランド国防相とテレビ会議形式での緊急会談をしたことが顰蹙を買った。ある政府関係者はこう解説する。
「この会談はウクライナの隣国ポーランドの在留邦人保護について支援を求めたものですが、これは本来、外務相の仕事であって、防衛相の仕事ではない。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍トップと会談したとあっては“ロシアと完全に敵対するぞ”と言っているのも同然です。
ロシアがウクライナを武力侵攻したことは弁明の余地のない悪ですが、日本にとっては隣国でありエネルギー資源の重要供給元でもあるなど、欧米とはまた違った事情がある。これほど鮮明に旗色を示してしまってはロシアの態度を不要に硬化させてしまうと懸念せざるを得ませんでした」
岸田文雄首相は第二次安倍政権時代に外務大臣を約4年半の長期にわたって務めた経験があり、この岸防衛相の振る舞いが外交ルール上、不適当な行為であるとわかっていたはずである。林芳正外相も含め、自衛隊という実力組織のトップが外交ルールを無視したかたちで、誤解される恐れが高いメッセージを国際社会に送るのを制止しなかった問題は大きい。
岸田首相は26日夜に防衛装備品と合わせて、食料品でパックご飯約3万5000個、魚の缶詰約3万缶など計約15トンを送ることを表明した。ただ、「小麦の世界的産地でパン食の文化のウクライナにパックご飯はセンスがなさすぎる」(前出の政府関係者)との批判も少なくない。前述のように海外での情報収集力や外交センスが弱っていることに加え、第二次安倍政権が「アベノマスク」で失態を演じた「受け手のニーズを考えずに自分や側近のアイデアを押し付ける」という姿勢を岸田政権が踏襲しているのであれば、ウクライナからすれば「ありがた迷惑」になっている懸念がある。
(文=Business Journal編集部)