ネット上で「海外で働きませんか。未経験でも高収入。タイピングさえできればスキル不要。飛行機代も無料」などと好条件の人材募集が出され、それに応募してカンボジアなどの現地へ行った人々が誘拐され、監禁や暴行、人身売買などの被害に遭う事件が昨年から今年にかけて多発しているのだという。
一部では「犯罪組織が誘拐した人たちの臓器を抜いて売り飛ばしている」という都市伝説のような被害が起きていると伝えられ、日本ではあまり騒がれていないものの、中国語圏や英語圏のコミュニティはこの話題で持ちきりになっているようだ。
被害者の多くは、台湾や香港の居住者たち。捜査当局の発表や現地報道を総合すると、SNSに「海外で働きませんか。月収80万円以上で渡航費負担。特別なスキルは不要。ビザ申請や住宅の確保も代行します」などといった広告が出回り、多くの応募者がカンボジアやタイ、ミャンマーなどに誘い込まれたそうだ。
しかし、実際は好条件の仕事などなく、各国政府の権力が及ばない無法地帯(国境沿いに存在する)でトイレもない劣悪な場所に監禁され、拷問や性的暴行を受けた挙句に詐欺行為の手伝いや違法カジノでの強制労働などをさせられ、最悪の場合は臓器売買のために殺害されるという。
香港メディアでは、広告にだまされた28歳の男性がタイ入国後に何者かに拉致されてパスポートと携帯電話を奪われ、そのままミャンマーへ連れていかれたという実例が紹介されている。男性は1カ月間にわたって詐欺行為の手伝いをさせられた上に暴行を受け続けたが、家族が身代金を支払ったことで解放されたそうだ。
被害者数は数千人規模か
一連の事件は台湾や中国の暴力団組織が関与しているとみられ、今年に入ってから捜査当局が把握しているだけで450件以上の被害が確認されている。だが、それは氷山の一角でしかないようで、台湾の捜査当局によると「台湾人だけで1000人以上が行方不明」になっており、被害は全体で数千人規模にのぼる可能性がある。
一方で台湾・香港の当局などによる摘発が進んでおり、今回の事件の中心になっている犯罪組織の幹部のひとりである中国人の男が先日逮捕された。
香港の英字メディア「英文虎報」は、この男について「違法オンラインカジノ運営やミャンマーでの臓器売買・人身売買に関与していた容疑で逮捕された」と報じており、都市伝説の中の話だと思われていた「臓器売買・人身売買」が現実のものであることを証明している。
また、台湾当局は「事件の背景には、中国の巨大経済圏構想『一帯一路』の影響がある」と中国政府を批判し、政治的な問題にも発展しそうになっているようだ。
現在も行方不明のままの人が多数いるだけに、一刻も早く恐るべき事件の全容が明らかになることを願いたい。