競馬や競輪などの公営競技が認められていない中国だが、宝くじは発行されている。
中国国務院によると、2015年通年の宝くじ発売総額は2015億1100万元(約3兆4000億円)だったというから、人民1人に当たり年間およそ2700元(約4万6000円)分を購入している計算になる。数字選択式のロトタイプの宝くじには当選金に上限がなく、4億9700万元(約84億円)という超高額当選の例もある。
そんな人民の射幸心を加熱させる宝くじをめぐって、凄惨な事件が発生した。
5月26日付「網易新聞」によると、浙江省台州市玉環区に位置する宝くじ売り場で宝くじを販売していた女性が刺殺される事件が発生。犯人の男は、その場で自殺した。
男はこの売り場で数字選択式の宝くじを購入しており、3000元(約5万円)が当選していた。ところが、「本来購入を希望していた数字通りなら700万元(約1億2000万円)当選するはずだったが、店員が印字をミスした」と女性店員に詰め寄り、言い争いの末に刃物で殺害してしまったという。
これだけではなく、中国では宝くじに関連した犯罪が多発している。昨年4月には、山東省済南市で宝くじを購入するために友人などから100万元(約1700万円)借金していた男性が、借金の使い道について妻にとがめられたため、斧で妻の頭部を切り付けて殺害するという事件が発生した。
運良く高額当選したのに、その後に悲惨な目に遭う人もいる。昨年10月、山東省煙台市で17万元(約300万円)を当てた男性が、金目当ての犯罪グループに誘拐され、殺害される事件も発生している。ちなみに中国では、宝くじの高額当選者を招いて賞金授与式が行われることも多いが、当選者は着ぐるみを着用して現れるのが慣例となっている。
人心を荒廃させる宝くじが野放しにされているのは、一言で言えば儲かるからだ。中国では、中央政府と地方政府が宝くじの収益を折半し、共に社会福祉や社会保障のために使われることが建て前となっている。しかし実際には、宝くじ収益の使途は極めて不透明だ。
14年の宝くじの収益658億元(約1兆1200億円)のうち、169億元(2900億円)の使途が不明であることが発覚した。調査した結果、その多くは宝くじを所管する地方官僚らが着服していたことが判明している。
中国の宝くじは、まさに庶民から富を吸い上げる恰好のポンプとなっているのだ。
(文=広瀬賢)