電動キックボードで全国初の死亡事故が発生した。警視庁が26日、発表した。警視庁月島署の発表によると、25日午後10時45分ごろ、東京都港区の会社役員の男性(52)が中央区勝どき6丁目のマンション駐車場内で電動キックボードを運転中、方向転換後に走り出そうとして車止めに衝突し、前向きに倒れて頭を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認されたという。男性はヘルメットを着用していなかったという。一部報道では飲酒運転の可能性も指摘している。
事業者の要望でヘルメット着用義務がなくなる
事故を起こした電動キックボードは、「産業競争力強化法」に基づく新事業特例制度を利用し、東京23区と多摩地区で展開されている実証実験で、事業者から貸し出されたものだ。実証実験は「グレーゾーン解消制度・プロジェクト型『規制のサンドボックス』・新事業特例制度」の一環として行われているものだ。
電動キックボードを道路交通法で厳密に定義するのなら「原動機付き自転車」と同じカテゴリーに分類され、運転するためには原則として”原付免許”が必要だ。実証実験は2020年から東京都区内の一日地域で始まっていて、当初、運転者のヘルメット着用や車道を通行することが義務づけられていた。交通事故捜査経験の長い元警視庁幹部は話す。
「21年1月25日、事業者から経済産業省などに『原動機付自転車として扱うことは合理的でない』として、『運転時のヘルメット着用を任意とすること』『普通自転車専用通行帯の走行を認めること』『自転車道の走行を認めること』『自転車が交通規制の対象から除かれている一方通行路の双方走行を認めること』の4点について要望がなされました。この結果、国土交通省や国家公安委員会で『特例措置』が整備されたのです」
”自転車道”も通行可に
事業者からの要望と国交省、国家公安委でなされた議論の経緯は経済産業省産業局生活製品課の公式サイト上にまとめられている。同様に警視庁公式サイトにはこの特例措置に関する解説がなされている。電動キックボードをトラクターなどと同種の「小型特殊自動車」として位置付けることやヘルメットの着用の”任意化”、「自転車道の通行可」など、一気に規制は緩和された。前述の元警視庁幹部は嘆息する。
「電動キックボードを特例措置の規制におさめるため、事業者側は下り坂でのスピードが時速15キロ以内に制限する仕組みなど安全配慮への努力をしたのは確かです。速度的に自転車と同じくらいなのに、原動機がついているという理由だけで、自転車道が通行できないというのは確かに合理的ではないでしょう。
ただ規制緩和の要望の背景には、ストリートカルチャーなどに造詣の深い事業者が電動キックボードレンタル事業に参入していたこともあり、利用者層を狙ったイメージ戦略もあったのではないでしょうか。簡単に言えば『ヘルメット着用はダサい』ということです。
新聞報道を読む限り、今回の事故状況なら、ヘルメットを着用していれば命を失うことにはならなかった可能性が高いと思います。我々警察はたとえ自転車であっても、死亡事故を減らすために利用者へのヘルメット着用を呼び掛けています。本音を言えば、誰かの生命・安全にかかわる部分で、安易に規制緩和をするのはいかがなものかという疑問はあります」
(文=Business Journal編集部)