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片田珠美「精神科女医のたわごと」

札幌・女子大生死体遺棄:なぜ小野勇容疑者は瀬川さんを殺害したのか?強烈な欲求

文=片田珠美/精神科医
北海道警察(「Wikipedia」より)
北海道警察(「Wikipedia」より)

 22歳の女子大学生・瀬川結菜さんの遺体を北海道札幌市のアパート自室に放置したとして、逮捕・送検された53歳の小野勇容疑者は、北海道警察の調べに対し「被害者から殺して欲しいと依頼され、首を絞めて殺した」と供述し、殺害についても認めているという。

 小野容疑者は「自殺願望のある人たちとSNSでやりとりをしていた」とも供述しており、本人が「以前にも人を殺した」と話していたという知人女性の証言もある。さらに、本人のアカウントとみられるツイッターには、「ツイッターで知り合った人が本人の希望通りに亡くなった・・・」「ちゃんと供養する」「3人目かあ・・・」などと書き込まれている。

 事実とすれば、瀬川さん以外の自殺志願者も殺害した可能性も否定できない。2017年10月に神奈川県座間市のアパートの一室で男女9人の切断遺体が見つかり、当時27歳の白石隆浩死刑囚が逮捕された事件を彷彿させる。座間9人殺害事件と同様の展開になれば、今回の事件も連続殺人といえる。

連続殺人の動機は「コントロールへの欲求」

 連続殺人犯(シリアルキラー)の胸中にしばしば性的な動機が潜んでいることはよく知られている。白石死刑囚は女性を殺害する前に乱暴していたし、小野容疑者も、死体遺棄現場となったアパートで一夜を共に過ごし、お互いの境遇を語り合った30代女性AさんにLINEで「殺す前にやらせて」と性行為を求めるメッセージを送っている(「文春オンライン」10月13日配信)。もっとも、それだけで犯行に及ぶわけではない。世界的ベストセラー『アウトサイダー』で有名なイギリスの作家、コリン・ウィルソンは、それに加えて「自尊欲求の充足」を動機として挙げている。

 それでは、「自尊欲求」とは何かという話になるが、一言でいえば「コントロールへの欲求」である。

 つまり、被害者に対して支配力をふるい、コントロールしたいからこそ犯行に及ぶわけで、ウィルソンは「主目的はあくまでも自分が主人になったと感じることにある」と述べている。

 このタイプの犯罪者は、不全感や劣等感にさいなまれていることが多く、それがルサンチマン(遺恨)を生み出す。小野容疑者がAさんに語った人生を振り返っても、こうした感情が強いことがうかがえる。若い頃は自衛隊に所属し、その後ボスニアで傭兵をしていたようだが、帰国後は住宅販売やキャバクラの店長など職を転々としている。タクシーの運転手として働くようになったものの、その時期にうつ病を発症して無職になったという。しかも、30代で結婚し、娘ももうけたものの、2年半で離婚。そのうえ、「父が死んでから自分も死にたいという気持ちが強くなった」とAさんに話している(「文春」より)。

 仕事も家庭も思うようにならず、無力感を抱え、孤独な人生を送っているからこそ、「コントロールへの欲求」を満たせるように犯行に及ぶのかもしれない。小野容疑者の「コントロールへの欲求」の強さは、何よりもツイッターのプロフィールに<心優しき死神でありたい>と書き込んでいることに表れている。死神とは、人の生死を支配する超越的存在にほかならない。自殺志願者にSNSで声をかけ、その生死を自分がコントロールすることによって、はじめて「これでもひとかどの人間なのだ」という意識を持てるとも考えられる。

 小野容疑者はAさんに「死にたい人を殺すことでしか役に立てない」とも話したという(「文春」より)。これは裏返せば、自身が死神になることによってしか「コントロールへの欲求」を満たせないということだろう。にもかかわらず、自殺志願者を殺害することが役に立つという認識には、自己正当化と自己欺瞞の匂いを感じる。

 今回の事件の背景には、小野容疑者の強い「コントロールへの欲求」があるように見受けられる。小野容疑者が強い「コントロールへの欲求」を抱くようになったのはなぜなのかを分析するためにも、生育歴や家庭環境、教育環境や職場環境などの詳細な解明を切に望む。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

コリン ウィルソン、ドナルド シーマン『連続殺人の心理』〈上下〉中村保男訳、河出文庫、1993年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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