住まい情報やトレンドを発信する不動産情報サイト「LIFULL HOME’S PRESS」は1月10日、都心に毎日通う人をターゲットとした「【一人暮らし×都心通勤・通学編】住みやすさのわりに家賃が安い駅ランキング2023」を発表した。本ランキングは「都心の職場や学校に通いやすい駅」として、JR山手線各駅および山手線各駅から20分圏内にある駅を対象に、住みやすいわりに家賃が安い駅をラインナップしている。そこで、今回は葛飾区の「亀有駅」が1位に選ばれたのだ。
亀有駅にはJR常磐線が乗り入れ、大手町駅まで約24分、東京駅まで約33分、新宿駅まで約40分という立地となっている。また、駅前環境が充実していることも評価され、トップに選ばれたそうだ。ちなみに亀有といえば、下町のシンボル的な街であり、今なお昭和の香りが強く残る地域として認識している人も多いかもしれない。
しかし、ネット上ではこの結果に対してさまざまな声が上がった。なかでも、「亀有駅には常盤線しか通っておらず、新宿まで40分かかるなら正直微妙」「家賃相場の低い西多摩は駅前施設が充実している駅が多いし、都心にも同じぐらいの時間で行ける」「家賃が急騰していて、古くて高いアパートばかり」と納得いかない声が多く見受けられた。
そこで今回はそんな疑問が本当なのか確かめるべく、実際に亀有駅を訪れ、現地でわかった街の様子を観察し、忖度なしにレポートしていく。
「こち亀」愛溢れる活気ある南口
「こち亀」の立像
改札ホームから南口へ進むと、バスロータリーや商店街など活気ある駅前広場に出る。南口正面には亀有を舞台にした漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社)でお馴染みのキャラクター・両津勘吉、中川圭一、秋元カトリーヌ麗子の立像がお出迎え。熱心に写真を撮る人も散見されたので、ちょっとした観光客需要もあるのだろう。
駅前に設置されている商店街のフラッグにも「こち亀」のデザインが。このフラッグは駅周辺の至るところで見かけられるので、亀有全体を「こち亀」で盛り上げていこうとする意図が感じられる。
交差点を渡ると、リーズナブルな価格設定の飲食店、ファミリーレストラン、コンビニ、クリニックなどが並ぶ。日常的に使いやすい店が最低限揃っている、という印象だった。南口近くの「リリオ亀有」は、1階、地下1階に「イトーヨーカドー亀有駅前店」が入っており、そのほか「ニトリ」「ノジマ」など大型ショッピング店がラインナップ。人通りも多く、安くて便利な飲食店が場所を占めていたためか、数人で戯れる高校生をよく見かけた。
また駅周辺は自動車の駐車違反を取り締まる警察官が多い印象だった。熱心な取り締まりのおかげか、迷惑な駐車違反車を見かけることはなく、広々としていて歩きやすい。ネット上では治安の悪さを指摘する声もあったが、噂ほど治安は悪くはないと感じた。
寂しさはあるが、整備された街並み
また歩いてみて気づいたことが、亀有は駅を中心に放射線状に商店街がいくつもあることだ。特に婦人服、和菓子屋、スーパーなど客層が年配向けであり、建物自体も古びているところも少なくない。ぱっと見だともの寂しい感は否めないものの、シャッターが降ろされている店は少なく、どれも人気があったので、ほどほどに充実しているといえよう。
こち亀のマンホール
そんな亀有で最も魅力的だったのは、やはり先述したように「こち亀」と街のコラボだろう。マンホールや銅像など「こち亀」とのコラボは街のいたるところにある。「週刊少年ジャンプ」(同)で40年にもわたって連載された作品である「こち亀」は、もはや亀有には欠かせないシンボリックな存在となっており、住人たちの「こち亀」愛の高さがうかがえる。ただ、本作は昭和から平成にかけて連載された作品であるため、若者を中心とした新しい客層を取り込むのは難しいかもしれない。
ここでルートを変えて、環七通りを目指して江北橋通りを真っ直ぐ進んでいく。歩道の幅は広く、道路沿いには新旧入り混じったマンションや個人店が並んでいる。街が整備されており、ネット上で懸念されていた建物の汚さ、古さはあまり感じなかった。
突き当たりの環七通りを渡ると大型ショッピングモール「アリオ亀有」が登場。駅から徒歩6、7分という立地にあるため、利便性は高そうだ。実際、子ども連れからお年寄りまで幅広い層が利用しているようで、駅周辺の商店街と比べて人が多く、平日にもかかわらずアリオ内のフードコートはかなり混んでいた。定点観察してみた感じ、駅前の商店街よりアリオで買い物をする人が圧倒的に多いと思われる。
一方で北口は古い雰囲気が充満
次は北口を散策してみよう。こちらは南口とは対照的に建物は老朽化の傾向が見られ、お店の多くはシャッターが閉まり、発展していないように思えた。唯一駅前には活気があったが、パチンコ店、居酒屋などが並び、ネット上の噂どおり古くて治安の悪いイメージを受ける。客層も中高年の男性を主としている様子。こういった雰囲気は好き嫌いがわかれるところだろう。
駅から徒歩3、4分のところには東京都立東部地域病院がある。東京都区部の東部地域における中核病院として知られている。
病院のある通りを真っすぐ進むと、閑静な住宅街が広がる。駅前の商店街を抜けただけで、がらりと街の印象が変わって驚いた。一軒家が多く、子ども連れも見受けられるようになったことから、ファミリー層に向いている地域といえる。そのため一人暮らしならマンションやアパートの多い南口のほうが住みやすいだろう。
では最後に亀有駅の家賃相場を見てみよう。実情はそこまでリーズナブルとはいえるものではなく、SUUMOの都内家賃相場平均を見ると、葛飾区はワンルームで5.6万円。
対して、あくまで一例だが、新宿駅から電車で20分圏内の調布市は5.5万円と僅差ながら葛飾区よりも安い。調布駅は再開発により駅前施設が非常に充実しており治安が悪い印象もあまりないことから、亀有駅が「住みやすさのわりに家賃が安い駅」1位ということに、納得がいかない層がいるのも理解できる。
最後に亀有駅の総評をすると、便利な商業施設、飲食店、クリニックなどが充実していて、治安はネットで噂されるほど悪くはなさそうだった。都心へのアクセスもまずまずといったところか。ただ街全体が昭和感に溢れており、新鮮さがあまりなく、一般的な若者が強く惹かれる要素は薄いとは感じた。とはいえ、昔のイメージのまま汚くて古い街というほどではないので、気になった方はぜひ、実際に亀有駅を訪れて自分の目で確かめてみてほしい。
(取材・文=おがわるり)