狩猟のパートナーとして、そしてペットとして、1万年以上前から人間と生活を共にしてきたのが犬という動物だ。飼い主に恵まれて幸せな一生を送れる犬がいる一方で、飼い主が亡くなったことで犬が残されてしまうケースもある。そして一部のブリーダーやペットショップ、そして飼い主から放棄されてしまう犬もいる。『とらおさんと犬のお話』(Kumpoo著、幻冬舎刊)によると、こうした「無責任な人々」はコロナ禍で一気に増えたという。
本書ではこうした不幸な犬たちのために新たな家族を探す活動をしている「とらおさん」と保護された犬たちに光を当てる写真絵本。傷ついた犬たちと生き物を愛する人々の心の交流が描かれている。
犬たちの愛くるしい表情の裏に透ける保護犬の現実
とらおさんのもとで、たくさんの犬たちが新しい飼い主が見つかるのを待っている。ただ、新しい飼い主が見つかりやすい犬もいれば、そうでない犬もいるのが現実だ。生まれてすぐペットショップに「売り物にならない」ということで放棄された子犬の「ファンキー」はまだ0歳4カ月。愛らしい見た目の「ラムネ」もまだ子犬だ。まだ小さい犬の方が、里親が見つかりやすい。
保護されてすぐに里親に引き取られていく犬と、それを見送り続ける犬。これまで何匹もの仲間を見送ってきた元繁殖犬の「マム」や、山でやせ細っているところを保護された「ドングリ」は、なかなか飼い主が見つからない。
本書には飼い主に引き取られていくファンキーを「あたしは大人だからさ。寂しくないし」と見送るマムの印象的なカットが収められている。マムは年老いた自分を迎え入れる飼い主などいないことがわかっているのだ。
しかし、ある日とらおさんが「マム、卒業よ!!」と告げた。マムは信じられない思いだったが、そこには「マムがいいの。マムがいるだけで、私たちは幸せになれるの」と言う女性が迎えにきていた。ほどなく「ドングリ」にも、「私たちの家族になってほしい」という申し出が。「ぼくみたいな仲間が、たくさん増えるといいな」と考えるドングリのカットで物語は結ばれる。そこからは彼らのような幸運に恵まれない犬も少なくないことがうかがえる。
欧米では当たり前の保護犬を飼うということは、日本においてはまだこれからです。(本書あとがきより)
犬たちの愛らしい表情に癒されるとともに、彼らを取り巻く環境の厳しさにも思いをはせずにいられない一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。