談合で価格決定、不当利得の新聞業界~過小資本で経営の傾いた巨大新聞社に税金投入?
業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出された。
太郎丸嘉一は前のめりになった吉須晃人を制するように手を挙げた。
「まあ、わしの話を全部聞きよれ。質問はそれからじゃ。わかりおったな」
2人が頷くと、太郎丸は続けた。
「お主らのやりよることはじゃな。人脈を使ってわしの足りんところを補ってほしいんじゃ。吉須君は経済界と官界、特に金融業界と財務省・金融庁関係の人脈、深井(宣光)君は自由党関係の人脈をな。新聞業界救済に異論を差し挟まないようなムードを作ればええんじゃ」
黙って太郎丸の説明を聞くのを了解したはずの吉須が身を乗り出し、容喙(ようかい)しようとした。
「吉須君、カリカリするな。話は始まったばかりじゃ。聞かんでもお主が言いよりたいことはわかっちょる。『ジャーナリズムの死滅と新聞業界の救済は関係ない』と言うんじゃろ」
太郎丸が先回りすると、吉須も引き下がった。
「確かに、新聞業界の救済とジャーナリズムの再生は別次元の話じゃ。じゃがな、お主らな、今となっては器(新聞社)を壊しよってはジャーナリズムを再生させよるのも至難の業じゃ。じゃから、器を残しよる方策と、ジャーナリズム再生の方策は別々に考えちょる。今、説明しよるのは器を残す方策じゃ。異論があるじゃろが、しばらく黙って聞けや」
太郎丸は熱燗を一杯飲み、一息入れた。そして、怒涛(どとう)のごとく、自分の懐いている新聞社救済策をまくしたてた。
●投資ファンドをつくって新聞業界に税金投入?
結論は、大半の新聞社は10年以内に経営が行き詰まる、その理由は小学校1年生くらいの足の大きさ(20cm未満)しかないのに身の丈や体重は大柄な男性並みで、倒れてしまう、だから、足も大柄な男性並みにする特効薬を開発しなければならないというのだ。
新聞社はあまりに過小資本(足)なうえ、現在は資本増強(足を大きくする)の道が事実上閉ざされている。この状態を解消しなければ、新聞社が資金繰りすらままならなくなるのは時間の問題であることは否定のしようがない。
だから、政府に新聞社の資本増強をするための2000億円程度の投資ファンド(特効薬)を作らせようというのが太郎丸の救済策のミソで、その実現に協力してほしいと訴えた。
投資ファンドは、複数の投資家から集めた資金で特定の株式に投資し、それで得られた利益を出資者に分配するのが普通である。大抵は高成長が期待できるベンチャー企業に投資し、その企業が急成長した暁に株式を売却、投資家に資金を戻すのだ。しかし、新聞業界は衰退産業であり、これからその株式を取得しても、将来、価値が目減りする可能性が極めて高い。そんな業界を対象に投資するファンドに出資する投資家などいない。
だから、太郎丸の救済策では、投資ファンドに出資するのは国である。つまり、国民の税金を2000億円投じて、新聞業界を救済しようというのだ。
国民は言うに及ばず、政財界の理解を得るのも至難である。だから、吉須と深井の二人の協力が不可欠と考えているわけだが、救済策を打ち出す大義名分はある。
《民主主義社会を守るには健全なジャーナリズムの存続が不可欠だ。それには、新聞社という器を残さねばならない。器の中身は後で変えればいい》
それが太郎丸の拠り所なのだ。