中国防空識別圏、世界各国の反発で外交的失敗?中国で噴出する反日感情と強硬姿勢への期待
中国が尖閣諸島の上空を含む空域に「防空識別圏」を設定した問題をめぐって、各国が反発を強めている。
米国は11月26日、核兵器も搭載可能な米国のB52爆撃機2機を事前通告なく、中国が設定した空域で飛行させた。28日付日本経済新聞によると、米国防省は「訓練の一環」と発表しているが、米軍は中国が求める飛行計画書の事前提出には応じておらず、米メディアも「あからさまに中国の『ADIZ(防空識別圏)に挑んだ」と報じている。
米下院軍事委員会のフォーブス委員長は26日、佐々江賢一郎駐米大使との会談で「(日米)同盟を再確認するために必要なステップだった」(同紙)と語っており、B52の飛行は中国に反対する意思を示したものであることは間違いないとみられる。
しかし、中国にとって米国の反応は想定外のものだったようだ。そもそも、日本の防空識別圏は在日米軍が定めたもので、1969年に日本が引き継いだ経緯がある。防衛省幹部は同紙記事で「中国の措置は米軍のつくった秩序への挑戦だ。米国のここまでの強い反応は想像していなかっただろう」と話している。
同様の見解を示しているのが、東京大学法学部教授の高原明生氏だ。高原氏は同紙記事で、中国がこの時期に防空識別圏を設けた理由を「戦闘を望んだとは思えず、指導部の権力基盤が定まっていないためかもしれない」と分析。さらに、「日米だけでなく韓国まで刺激した。外交的には大失敗だ」とも指摘している。
中国が設定した空域には、日本のほかに韓国、台湾の防空識別圏も一部含まれている。27日配信の産経ニュース記事で前防衛相の森本敏氏は、この中国の措置について「国際上の一般規則である公海上空の飛行の自由を不当に侵害するものである」と批判。また、今回の設定は中国領空を接近する航空機に限らず、空域を飛行する航空機全般を対象としていて、設定空域を飛行する航空機全てに飛行計画書の事前提出を求めていた。これに対して森本氏は「国際社会における法と秩序の原則に対する違反以外の何物でもない」と強く非難している。
朝日新聞の27日朝刊によると、中国の航空当局からの指示を受けて、台湾・香港路線がある日本航空と全日空、ピーチ・アビエーション、日本貨物航空は23日以降、中国に対し飛行計画書を提出してきた。ところが、国土交通省は26日、国内航空各社の中国への飛行計画書の提出を打ち切ると発表。外務省の斎木昭隆事務次官が25日、中国の程永華大使から「今回の措置は民間機を含めて、飛行の自由を妨げるものではない」との見解を得て、提出がなくても運行を妨げられないと判断したためだという。
また、自衛隊機と海上保安庁の航空機も、中国が設定した空域を事前の通告なしで飛行していると28日配信の朝日新聞デジタル記事が伝えている。いずれも通常業務の一環として東シナ海を飛行したもので、「運用上支障がある」として飛行した日数や機数は明らかにしていないが、緊急発進など、中国側の反応はなかったという。
現状では武力行使には至っていない中国だが、国内では軍に強硬姿勢を求める声もあるという。27日配信のロイター記事によると、中国版ツイッター「微博」では反日コメントが噴出。「日本人は恥知らず。過ちを認めて我々の土地を返すまで、中国軍は徹底的に攻撃するべきだ」「最善策は日本との経済交流を断ち切ることだ。1年以内に彼らは崩壊するだろう」という過激な意見も増えているという。
日中関係が改善する兆しは、いまだ見えてこない。中国がさらに強硬路線を強めるのか、あるいは関係各国の反発もある中で、中国の方針に今後変化はあるのか、注視する必要がありそうだ。
(文=blueprint)