年間被害額450億…急増する振り込め詐欺から透ける、高齢者と若者の世代間格差
高齢者の大半がぎりぎりの生活を強いられているなら、振り込め詐欺にいとも簡単に引っかかってしまうとは考えにくい。痴呆が進んでいるとか、特別の事情がない限り、いくら子や孫が可愛いと言っても、自分の生活が破たんしかねないような金額のお金をホイホイ出してしまうことはないはずだからだ。
つまるところ、長引くデフレの中で、急速に“マルビ”化が進む若者と対照的に、日本の高齢者は“マル金”なのだ。振り込め詐欺の被害額の拡大は、世代間の格差が広がっている証左なのである。もちろん、日本のすべての高齢者が“マル金”なわけではない。“マルビ”の高齢者もたくさんいるのを忘れてはならない。
●首都圏に被害の8割が集中
例えば、前出の警察庁発表によると、親族を装って電話をかける「オレオレ詐欺」が10月までの10カ月間に全国で4258件発生したが、被害は東京、神奈川などの首都圏が約8割を占めたという。要するに、首都圏に住む高齢者に“マル金”が多く、高齢者の間でも地域間の格差が大きくなっている。
“マルビ”化する若者についても、大企業(公務員も含む)に勤務する者と、そうでない者の格差は広がっている。今の日本社会を蝕む格差拡大は世代間、地域間、企業間で広がり、複雑化しているのだ。
“アベノミクス”を掲げる安倍晋三政権は、人口が減っても高い成長を実現する“前例のない未来”を目指している。仮に、それが実現できたとしても、日本の経済社会が超高齢化していくことは変えられないし、「国の借金」だけで1000兆円を超えた世界最大の債務国という重しものしかかる。消費税増税に象徴されるように、政府は国民に“負担増”を求め続けざるを得ない。
少なくとも経済政策的には、高齢者=弱者という単純な視点だけで惰性的に前例を踏襲し、十把一絡げ的な政策運営を続けることは、もはや許されない。“負担増”という難題をクリアするには、複雑化する格差拡大社会を前提に、よりきめ細かな政策を構築することが不可欠なのだ。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)
●大塚将司(おおつかしょうじ) 作家・経済評論家。著書に『流転の果て‐ニッポン金融盛衰記85→98』上下2巻など