東京・中央区晴海にある練習船(実習船)用の桟橋に、周辺のマンション住民から音がうるさいなどのクレームが寄せられて実習に障害が生じているという情報が一部SNS上に広がり、議論を呼んでいる。このエリアには「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」や大規模マンションなどが集まっているが、桟橋をめぐる情報は事実なのか。東京都、桟橋を練習船用に使用する海技教育機構に聞いた。
一部埋め立て地を含み東京湾にせり出すかたちで整備された晴海5丁目とその周辺エリア。南西の海岸には東京湾のシンボルの一つだった晴海客船ターミナル(2022年に廃止)、晴海ふ頭公園があり、その北東側には巨大マンション群・晴海フラッグ、さらには複数の大規模マンションがそびえたつ。その晴海ふ頭公園から東京湾に出る場所にあるのが「海技教育機構晴海専用桟橋H-2」だ。主に海技教育機構(JMETS)の練習船の停泊用に使用されている。
海技教育機構は、船員養成のための学科教育と練習船による航海訓練を行う独立行政法人。海技士を養成する海上技術学校や海上技術短期大学校、海技大学校の運営、商船系大学や高等専門学校などの船員教育機関の学生に対する航海訓練などを行い、水先人をはじめとする船員養成のための実務教育を行っている。
晴海埠頭が開業したのは1955(昭和30)年であり、晴海専用桟橋も40年以上前には設置されていたもよう。一方、晴海エリアにタワーマンションをはじめとする大規模マンションが建ち始めたのは、ここ10年ほどだが、前述のとおり「あとからできた」マンションの住民から前述のようなクレームが寄せられているとの情報がSNS上に投稿され、以下のようにさまざまな反応が寄せられている。
<港湾、空港、鉄道のような社会インフラのそばや、明らかな工場地帯に引っ越ししてクレームつけるのはおかしい>
<公園の隣に新築建てたのに「落ち葉が多くて迷惑してる」って苦情を入れる近隣住民はよくいる>
<工場や倉庫がいつの間にか住宅街に取り囲まれ、やれうるさいだの頻繁に大型トラックが走って怖いだの言われるのは、いわば「あるある」です>
<印刷工場の隣にマンションを建てて、「夕方には印刷機械を停めろ!」と言っていた人たちがいましたね>
海技教育機構「事実はございません」
こうしたクレームが寄せられているというのは事実なのか。海技教育機構に聞いた。
「東京港晴海埠頭H-2海技教育機構専用桟橋への当機構練習船の停泊に関し、お問い合わせのようなクレームがあったという事実はございません」
また、東京都港湾局は次のようにいう。
「晴海ふ頭H2桟橋は、海技教育機構が実習船の係留を目的に設置した桟橋です。本桟橋に停泊する実習船に対して、周辺住民から騒音に関するクレームが出ていること、実習に支障が生じていることなどについて、都としては承知しておりません」
「晴海ふ頭H2桟橋について、周辺住民から騒音に関するクレームが出ていること、実習に支障が生じていることなどについて、都としては承知しておりません。なお、海技教育は船員を養成するために必要ですが、静穏な住環境を確保することも重要であると認識しております」
不動産会社関係者はいう。
「業界的には一般的に、物件の近くに火葬場や下水処理場、工場、鉄道など大きな騒音や煙、臭いを生じる可能性がある施設が存在する場合は、借主や購入者に重要事項として説明することになっています。ただ、桟橋の存在を説明するかどうかは不動産業者によるでしょうし、しないことのほうが多いと思います。今回のケースでいえば、桟橋とマンションが立地しているエリアが距離的に結構離れているので、説明するとは考えにくく、桟橋の利用頻度や音の大きさなどを勘案すると、訴訟事案にもなり得ないでしょう」
(文=Business Journal編集部)