日本HP、不当解雇判決後の社員に病院検査を受けさせ、「要治療」と無給休職を命令
この診断の結果、医大側は「今回の件に関してはお答えすることはできない」と回答し、セカンドオピニオンとして都心の6つの病院を紹介した。法的な争いになりかねない判断を避けたかたちだった。
その後、日本HPはセカンドオピニオンに行かせることもなく、13年1月7日、K氏に対して「貴殿の職場復帰に関する会社判断について」という通知を出した。その中でK氏の処遇について、「就労自体は可能」としながらも、K氏が裁判中に嫌がらせがあったという趣旨のブログを書いていたことを理由に、「会社従業員による嫌がらせという社内における人間関係から生じた問題が主張されている以上、職場復帰し、会社における標準的な作業環境で就労することには障害が存する」「仮に、現在はそう思われていないという主張をされたとしても、そのような思いを持ち続けていると疑われる貴殿を同じオフィス、職場に復帰させることは、対象となる社員に対しても、大きな精神的ストレスを与えることとなり、会社としても無視することができません」と指摘。社内には適切な部署もなく、在宅勤務についても、チームメンバーとの協同作業なので難しいとした。
そして「上記検討の結果、会社といたしましては、休職を命じ治療を勧めることで、貴殿の健康と安全に配慮することが、使用者としての安全配慮義務を果たし、判決の主旨に沿った対応ができる」として、「休職を命じます。貴殿におかれては、ご家族の支援の下、速やかに専門医の診察を受けることを命じます」「休職期間は『業務外の傷病』の期間とします。貴殿の場合、勤続年数が(略)12年となりますので、休職期間は21か月となります」「休職期間は無給とします」とした。
また、セカンドオピニオンについては「これ以上時間をかけて結論を先延ばしにすることは、Kさんご本人にも新たなストレスを与えることになり、よくない」とし、受診させないとしている。
●報じない大手新聞
その後、K氏は会社に反論のメールを出したが、人事統括本部は「貴殿が就労不能であるとは判断しておりません。貴殿が会社内で精神的に健康で就業してもらうためには、医療による治療が必要であるという判断です」と返答するのみだった。
こうして復職を命じる司法判断が決定したにもかかわらず、一日も職場復帰できなかったK氏は、会社に対して、休職命令の無効とそれに伴う未払い賃金の支払いを求め、現在、係争中である。
当サイト前回記事『ブルームバーグ、不当解雇裁判で敗訴後も原職復帰認めず、被害者を逆提訴』で報じた事件も同様だが、日本の司法判断を無視する暴挙が横行している。
なお、K氏が記者会見をした際、大手紙の記者たちは盛んに質問し、日本HPの所行に憤慨している記者もいた。会見後にはK氏のもとに多くの記者が詰め掛け、名刺交換をしたり追加の質問をしていたが、日本HPが大手紙に多くの広告を出している影響力が働いているのか、実際にはどこも報じていなかったことを付言したい。
(文=佐々木奎一/ジャーナリスト)
●佐々木奎一(ささき・けいいち)
「My News Japan」を中心に、「別冊宝島」や「SAPIO」「週刊ポスト」などで執筆するジャーナリスト。企業のパワハラや不当解雇などの労働問題を中心に、政治家の利権や原発問題に絡むメディアの問題なども取材をする。これまでに、「キユーピー」のパワハラ問題の追及や大企業の障害者雇用に関する問題提起、バンダイナムコの社員うつ病問題などを追及して話題となっている。