東京・渋谷の繁華街。夜遅くまで続く人ごみの中、路上に座り込んでいる若者を目にすることがある。ずいぶん若い、高校生らしい姿を見ることも珍しくない。いつの時代にもいる、いわゆる「不良」だ、と決めつけるのは簡単だが、本当にそうだろうか。
「家庭にも学校にも居場所を見つけられず、“難民”のように町をさまよう高校生は、決して特別ではありません。ごく普通の高校生が、そうなっている例は多いんです」
そう語るのは、女子高校生サポートセンターColabo代表の仁藤夢乃さん。仁藤さん自身、中学生の頃にふとしたことから「ダメな子」とレッテルを貼られ、学校をサボりがちになった。家族ともうまくいかなくなって高校を2年で中退。渋谷の街を徘徊し、あちこちを泊まり歩く生活を送ったという。
仁藤さんの著書『難民高校生――絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル』(英治出版/刊)には、そんな生活の中で仁藤さんが体験したことや、出会った若者たちのエピソードが、まざまざと描かれている。
平然と援助交際を持ちかけてくるサラリーマン、「ダメな子」と決めつけ軽蔑の目でしか見ようとしない大人たち、一見明るい優等生なのに「死にたい」とリストカットを繰り返す少女、暴力を振るう彼氏に依存して抜け出せない少女……歪んだ世の中で安心できる居場所を求め、不器用にさまよう「難民高校生」たち。もともとは仁藤さんと同様「ごく普通の」若者だったというその姿に、同じ社会に生きる一人として、痛みを感じずにはいられない。
そんな仁藤さんが「難民」生活を抜け出し、検定を受けて大学に進学するきっかけとなったのは、一人の教育者との出会いだった。その予備校講師が運営する「農園ゼミ」で、世間からちょっとズレている若者たちと、ともに畑を耕し、野菜を育て、食卓を囲み、語り合う。そんな体験を通して、当初はしぶしぶ参加した仁藤さんは、「生きる」ことへの希望を取り戻していった。
「学んだことは数えきれません。食の大切さや手を動かして働く楽しさ、『いただきます』の意味、生きる基本のようなもの。それから、食糧問題や貧困問題など、社会のあり方についても関心を持つようになりました」
大きな変貌を遂げた仁藤さんは、大学に進学し、それから積極的に社会に関わるようになる。ファッションを通じて社会問題への関心を促すイベントを成功させ、東日本大震災の後には被災地の高校生たちとともに復興プロジェクトに取り組み、地元企業を巻き込んだその取り組みは他地域にも広がっていった。
今、仁藤さんは昔の自分のように苦しんでいる女子高生たちを支援する活動に取り組んでいる。女子高生サポートセンターColaboを立ち上げ、渋谷や秋葉原など夜の街をさまよう若者たちに声をかけ、寄り添い、必要ならそっと手を差し伸べる。これまで大人たちが目を向けてこなかった問題への地道な取り組みに、支援者も少しずつ広がっている。
『難民高校生』には、現代の若者を取り巻く問題のリアルな姿だけでなく、農園体験に見られる「生きる力」の教育のあり方や、被災地での活動が示した若者の可能性の大きさ、大人が若者と接する上で心がけるべきことなどが盛り込まれている。なんらかの形で若者と関わる人、かつて若者だった多くの人にとって、深い気づきのある一冊だろう。
最後に、高校生や若者のために自分にできることは何でしょうか、と質問すると、仁藤さんはこう答えた。
「若者たちが『こんな大人になりたいな』と思えるような大人に、なってください」
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。