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売春防止法違反・裁判傍聴記…息子の彼女(女子高生)に援助交際を強要したセレブ美魔女

文=今井亮一/ジャーナリスト
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(画像はイメージです/画像はGetty Imagesより)

 東京地裁で13時30分から「児童福祉法違反売春防止法違反」の新件(第1回公判)があった。私は被告人氏名でスマホ検索してみた。息子(高校生)の交際相手(家出女子高生)に売春をさせた母親がヒットした。ちょっと珍しい事件だ。傍聴してみよう。

 東京地裁は傍聴人が非常に多い。色情事件は大人気。女性被告人の事件も大人気だ。女性被告人の色情事件とあっては、傍聴人が押し寄せ大行列になりそう。13時ちょうどに行くと、すでに6〜7人が並んでいた。この法廷の傍聴席は20席だ。間に合った。

 新型コロナウイルス感染症で非常事態宣言が出てから、東京地裁の傍聴席は約3分の2が着席不可とされた。20席の法廷は12席に「不使用」と大きく印刷された紙が貼られ、現在も続いている。今回レポートするのはそれ以前の裁判だ。

息子の交際相手である女子高生に援助交際を強要、「お前に拒否権ねーよ」

 そばの待合室で、長身の中年男性が黒スーツのお年寄りに何か説明していた。弁護人と、被告人の父親かな? その読みは当たりとあとでわかった。法廷前の行列はどんどんのびる。弁護人は父親のために特別傍聴席(要するに取置席)を申請しているのかな?

 13時20分頃にドアの施錠が解かれるや、20席の傍聴席はたちまち埋め尽くされた。座れずに去った傍聴人もいた。立ち見は許されないのだ。それから弁護人と父親が来た。特別傍聴席はない。当然ながら父親は座れず、可哀想に出て行った。

 手錠・腰縄につながれた被告人が、奥のドアから刑務官に同行されて入廷した。鮮やかな赤色のメガネをかけ、鼻すじが通って口元はきりり。ゆったり大きめのお洒落セーター。ちゃんとお化粧すれば“セレブ美熟女”だろうと思えた。しかし犯行時は生活保護を受給していたという。

 息子の交際相手である女子高生が家出して被告人らと3人で暮らすようになり、被告人の息子は自分の服などを買うため女子高生に、検察官いわく「援助交際」をさせていた。女子中高校生の売春は援助交際と呼ぶのだ。やがて息子は「疲れるしめんどくせえ」とやめてしまい、母親である被告人が受け継いだ。「援交やれよ、やれば××区の女子校で1番の金持ちになれる」「はぁ? 何言ってんの?」「てかお前に拒否権ねーよ」、そんなやり取りがあったのだそうだ。

 公訴事実の売春は2件。その“料金”に私は驚いた。1件は4万5千円、1件は6万円。破格の高額といえる。トップアイドル級の容姿だったのか。被告人が商売上手でもあったのか。とびきり個性的な検察官と弁護人との間で非常に興味深いやり取りがあったが、省略しよう。今回のレポートで是非お伝えしたいのはそこじゃないのだ。

傍聴人がなだれ込み、傍聴席からはじき出された被告人の父

 1カ月半後の16時30分、その判決期日があった。16時5分頃に行くと、すでに行列があった。私は8番目だった。さらに6人ほどまとまって行列に加わり、さらに……。16時11分には、傍聴席数と同じ20人になった。そんなことを、腕時計を見ながらいちいちメモする者は、私以外にいないかもしれない(笑)。

 16時12分頃、そばの一般待合室から黒スーツのお年寄りが出てきて、行列の後ろについた。被告人の父親だった。今回は弁護人は特別傍聴席を取っているんだろうか。取っていなければ父親はまた傍聴できない。弾き出される。16時18分、ドアの施錠が解かれるや傍聴人たちが雪崩れ込んだ。特別傍聴席はなく、たちまちぎっしり満席。座りきれず、傍聴席の後ろでうろうろする者が何人もいて、そのひとりが父親だった。

 それから弁護人が来た。父親のほうを見もしなかった。ドアのそばに若い可愛い女性事務官がいた。父親は事務官に「ダメ、ですか?」と言い、寂しげに出て行った。この父親を間抜けだと責めることはできない。善良な一般人は、色情事件で被告人が女性だから傍聴人が押し寄せるとは想像もしないだろう。押し寄せたがゆえに被告人の父親が閉め出されるとは、想像もしないだろう。ちなみに、検察官側と弁護人側の傍聴席の前列端っこの前、バーのところに「関係者が来た場合、この2席は関係者に譲ってもらいます」という趣旨の小さな貼り紙がある法廷も見かける。が、この法廷にその貼り紙はなかった。

 事務官がバー(傍聴席の前の柵)の中に入り、書記官と何かひそひそ話した。書記官は奥のドアの向こうへ行った。ははぁ、父親をなんとか傍聴させられませんかと、裁判官にお願いに行ったのだな? 身内のために折りたたみ椅子をひとつ運んで特別に席を設けるシーンを、私は過去に一度だけ目撃したことがある。

「弁護人には来所を伝えてあった」と、被告人の父

 開廷時刻が迫り、奥のドアから手錠・腰縄の被告人が入廷した。まだ勾留されているのだ。あざやかな水色の長袖シャツ、あれはブランド物だろう。ちゃんとお化粧すればセレブ美熟女だろうと、つくづく思えた。

 間もなく書記官が戻り、弁護人に何か告げた。「裁判官に確認したのですが、特別傍聴席の申請がなかったので……」と聞こえた。開廷表によれば、この事件の担当は関洋太裁判官だ。ネットで経歴を調べると、判事補時代に最高裁刑事局で勤務したこともあるエリートだ。エリートらしい判断だと私は思った。いや、皮肉ではまったくない。

 しかし、くっそう! 私は傍聴席から立ち上がり、席に鞄を置いて廊下へ出た。一般待合室の入口のところに父親が所在なさげに立っていた。私は声をかけた。

「お父さんですね? 今日来ると弁護人に言ってあったんですか?」

 言ってあったと父親は答えた。いかにも純朴なお年寄り、という感じだった。

「そうですか、困ったもんですねぇ。こうなることはわかりきってるのに。私が(席を)替わりますから」

 私は父親を傍聴席へ案内し、鞄を取り上げて父親に席を譲った。判決は執行猶予付きに決まっている。その理由として裁判官は何を述べるか聞きたかったが、父親が娘の判決を見届けるほうが意味深いだろう。法廷を出る私に事務官がそっと会釈した。

弁護人と検察官の、わかりやすい“力量の差”

 東京地裁は異様なほど傍聴人が多い。色情事件や被告人が女性の事件は大人気。場合によっては20席の法廷に40人、50人が行列をつくる。しかし弁護人はまったく知らん顔。家族が傍聴できないことは、これはもう”東京地裁あるある”だ。

 一方、検察官はそのことをよく承知しているからだろう、検察官席の側に特別傍聴席が2席設けられていることはよくある。そしてその2席は多くの場合、最後まで無人だ。被害者やその関係者に「○日○時から裁判があります。もし来られるならどうぞ。席を取っておきます」と連絡する、そんな感じなんだろうか。弁護人と検察官の、これはわかりやすい力量の差といえるのかどうか、さらに裁判傍聴を重ねていきたい。

今井亮一/交通ジャーナリスト

今井亮一/交通ジャーナリスト

交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。ちなみに駐車監視員資格者証を取得している。
今井亮一の交通違反バカ一代!

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