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今井亮一「知らないと損する裁判傍聴記」

子どもの夏休みの自由研究、親子で“裁判の傍聴”に行こう…初めての人のためのガイド

文=今井亮一/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 夏休みの時期、裁判所では小学生と母親の2人連れをよく見かける。お母さんにくっついてじーっと裁判を傍聴する子もいれば、メモをとり法廷内の絵を描く子もいる。廊下でお母さんが息子にこんなことを言うのを私は聞いてしまった。

「あなた、明日はお母さん来なくていいって……言わないわよね」

 息子君は裁判傍聴がだいぶ気に入ったらしい。

 私は約40年間にわたり、事件数で9000件近くを傍聴してきた。私自身の子が小学生のとき、そのお友だちも連れて裁判傍聴をしたこともある。世のお母さん、お父さんのために、頭に入れておくといい話を少ししよう。

地裁の刑事の新件がお勧め?

 裁判は大きく「刑事裁判」と「民事裁判」に分かれる。テレビの裁判ドラマによく出てくるのは刑事裁判だ。大雑把にいえば、民事より刑事のほうが傍聴人にはわかりやすい。学生さんたちの多くは「地裁(地方裁判所)の刑事の新件がいい」と言われて来るようだ。

 裁判所には開廷表といって、その日の裁判のいわばメニュー表がある。開廷表は普通、1階の受付に全法廷の分がある。バインダーに綴られていたり、掲示板に張り出されていたり。東京地裁はタブレット式だ。各法廷の前にはその法廷の分が張り出されている。「新件」「審理」「判決」と普通は記載がある。「新件」とは第1回公判のこと。人定質問、起訴状朗読から始まる。初めて傍聴する方には地裁刑事の新件がお勧めだ。

 しかし、簡裁(簡易裁判所)の刑事裁判も侮れない。裁判所法の規定により、懲役刑については「窃盗」など一部の事件ついて3年以下しか科せないという制約はあるが、裁判の手続き自体は地裁と同じだ。裁判がどんなものかじっくり見てみたい方には簡裁がお勧めだ。

どこの裁判所へ行くか

 とにかく近くの裁判所へ行けば何か傍聴できる、というものではない。東京地裁とか一部の巨大裁判所は、いつ行っても午前も午後も何か傍聴できるが、地方の小さな裁判所はそうじゃない。滅多に開廷がない裁判所もある。「刑事裁判を傍聴してみたいんですけど、明日は開廷がありますか?」と予め電話して確認しよう。明日はなくても来週はどうか、開廷は何時か、普通は優しく教えてくれるはずだ。

 その前に、法務省のウェブサイトで年間の開廷数を調べてみる手もある。「法務省の統計」→「統計表一覧」→「検察統計」→「2018年」(現時点でそれが最新)→「18-00-06 検察庁別 被疑事件の受理,既済及び未済の人員」を開いてみてほしい。

「既済」のうち「公判請求」の人数が参考になる。公判請求とは正式な裁判への起訴だ。地検(地方検察庁)は地裁へ、区検(区検察庁)は簡裁へ公判請求する。それを受けて裁判所は公判(公開の法廷での裁判)を行う。たとえば東京地検(本庁)の2018年の公判請求は9218人。一方、たとえば私の郷里である石川県の金沢地検(本庁)は409人。輪島支部は0人だ。お近くの裁判所に対応する検察庁の、公判請求の人数を調べてみるのもいいと思う。

夏休みは「傍聴席争奪戦争」

 夏休みの時期は、裁判官たちも休暇をとる。裁判所の規模(裁判官の人数)にもよるが、開廷がない日が続いたり、開廷数が半分になったりする。そこへ、夏休み明けにレポートを提出しろと言われるのだろう、学生さんたちが押し寄せる。つまり、開廷が減って傍聴人が増えるのである。夏休みのこの状況を私は「毎年恒例、恐怖の傍聴席争奪戦争」と呼んでいる。

 加えて今年は新型コロナウイルス感染症のせいで傍聴席数が大いに制限されている。東京地裁の場合でいうと、52席が19席か18席に、20席が8席に制限されている。少なくとも今年いっぱいは続くだろう。

 学生さんたちが今年も従来と同様に押し寄せるかはわからない。学校のほうから「大人数で行くな」と言われているかもしれない。どうなるにせよ、必ず傍聴したいなら開廷時刻の20~30分前には行き、法廷のドアの前に張りつくほうがいいだろう。

人気のある事件と不人気な事件

 学生さんたちに人気なのは「殺人」や「死体遺棄」など怖ろしそうな事件と、「強制わいせつ」などの色情事件、そして、何であれ開廷表の被告人氏名が女性名の事件だ。そういう事件は法廷前に早々と大行列ができることが多い。

 小学生向きなのは「道路交通法違反」「過失運転致傷」「窃盗」、あと被告人が男性氏名の薬物事件か。それらは不人気な事件ではあるけれども、「新件」だとけっこう傍聴人が来る。夏休みで全体に開廷が少ないときは、そういう事件も危ない。早めに行こう。

 一方、外国人の「出入国管理及び難民認定法違反」などは断然不人気だ。外国人の事件はいちいち通訳が入るため、まだるっこしく感じるせいもある。かつ、ほぼすべて、不法残留の者に執行猶予判決を食らわせて強制送還するための形式的手続きといえる。とはいえ、建築関係の仕事で地道に働きながら病弱な日本人女性を助けて密かに幸せに暮らしていたとか、違法だけれども感動的なストーリーがあったりする。

裁判所でのふるまいは慎重に

 裁判所の廊下や待合室にいるのは、一般傍聴人だけじゃない。民事と刑事では、民事のほうが圧倒的に事件数が多い。多くは民事裁判の代理人弁護士や当事者、その関係者だ。また、刑事裁判については、弁護人、保釈中の被告人、家族、そして被害者、遺族などがいる。その人たちにとっては、裁判は一生の重大事だったりする。そこを頭において、廊下や待合室でのふるまい、会話には十分に注意しよう。

 裁判所内で新型コロナに感染する可能性についていえば、法廷で話すのは裁判官、検察官、弁護人、被告人、証人、あと通訳人ぐらいであり、大声でわめき合うようなことない。しかも、少なくとも東京地裁、東京簡裁、東京高裁では、全員がマスクを着用している。ということで、素敵な自由研究ができるといいですね。

今井亮一/交通ジャーナリスト

今井亮一/交通ジャーナリスト

交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。ちなみに駐車監視員資格者証を取得している。
今井亮一の交通違反バカ一代!

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