11月4日、米国中間選挙が行われ、上院、下院とも共和党が圧勝した。それまでの上院が民主党、下院が共和党という“ねじれ状態”は、上下院とも半数以上の議席を共和党が獲得したことで解消された。しかし、その一方で民主党のバラク・オバマ大統領と議会の対立構造は一層深まった。
中間選挙前から民主党の劣勢は明らかだった。しかし、米国の大統領選や中間選挙では、投票日直前に起こる出来事が選挙結果に大きな影響を与えることがある。例えば、2012年の大統領選では、当初はイランの核兵器開発が懸案事項と見られていたが、10月下旬に東海岸をハリケーン・サンディが襲い甚大な被害をもたらし、選挙戦を前にオバマ大統領は災害対策を迫られた。しかし、逆にその災害対策が高く評価され、再選への追い風となった。このような出来事は「オクトーバー・サプライズ」と呼ばれている。また、国を襲う恐怖、脅威、危害などが発生した場合に、国民の意識は国を守ろうという方向に働き、一体となって大統領の支持に向かう傾向があるが、それは「ラリー効果」と呼ばれる。
今回の中間選挙では、イスラム国が米国本土へのテロ攻撃を行うのではないか、との憶測があったことで、ラリー効果が生じる可能性を指摘する評論家もいた。しかし、実際にテロ攻撃の具体的な脅威はなく、ラリー効果は生まれなかった。
そしてもう一つ、米国民の注目を集めた危機的出来事があった。それは米国内でエボラ出血熱の2次感染、3次感染患者が発生したことだ。恐怖感が高まり、ラリー効果が生じる可能性もあったが、拡大は回避され、落ち着きを取り戻した。
●日本や世界経済にも悪影響を及ぼす?
結果として、オクトーバー・サプライズは発生せず、民主党は惨敗したわけだが、この選挙は今後の米国の政治、外交、経済に大きな悪影響を及ぼす可能性がある。もっとも、ねじれ状態が続いていた米国議会では、オバマ政権が機能していなかったのも事実で、現在の113議会(13年1月3日正午から15年1月3日正午まで)では、民主党と共和党の対立から重要法案がほとんど成立していない。「史上最低の議会」と揶揄される現状に多くの米国民は失望しており、すでに関心は16年の大統領選挙に向かっているといわれている。
米国では中間選挙の翌年、つまり大統領選挙の前年は株高になるというアノマリー(説明のつかない法則)がある。これには、大統領選に向けて、民主・共和両党が選挙公約としてさまざまな政策を打ち出すため、これが景気や株価に影響を与えるとの見方もある。しかし、今回の惨敗を受けて事実上、オバマ大統領は議会との対立により、レームダック(死に体)状態に陥った。今後、米国は政治、外交、経済などで重要法案が成立せずに、停滞する可能性がより高まったといえる。
ひいては米国の停滞が世界経済や日本経済にも悪影響を及ぼす可能性があるのだ。オバマ大統領は、議会との協力関係構築に向けて歩み寄りの姿勢を見せているが、難しい舵取りを迫られることになるのは間違いない。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)