ある出版関係者がそう話す「最後のチャンス」というのが、中川正春衆院議員が座長を務める「印刷文化・電子文化の基盤整備勉強会」、通称・中川勉強会が今年6月に発表した「中間まとめ」に記載されている著作権法改正についてである。それによると、「出版者に対して著作隣接権(「(仮称)出版物に関する権利」)を速やかに設定することが妥当」との結論を経て、早ければ来年の通常国会で、議員立法による著作権法改正に臨むとしている。さらに、超党派の議員で結成され、『国民の生活が第一』代表代行の山岡賢次氏が会長を務める『活字文化議員連盟』もこれに賛同する声明を発表した。
なぜ、いま出版社は躍起になって、出版界版著作隣接権(本記事では以後、著作隣接権とする)の獲得を目指しているのか?
この事態の発端は2009年に話題となった「グーグルブック検索和解問題」にまで遡る。この問題は、グーグルがアメリカで「図書館プロジェクト」と称して、フェアユースという権利を主張し、主に大学図書館に所蔵されている書物を勝手にスキャンしてデータベース化していたことに対して、アメリカの複数の出版社が「著作権侵害に当たる」としてグーグルを提訴。08年に両者は和解したのだが、その一方でグーグルは「この訴訟は、原告が利害関係者の全員を代表して訴える『集団訴訟』(クラスアクション)である」として、全世界の出版者に対して、「期限内に(データベース化に)『no』と言わないと、自動的に図書館プロジェクトに参加するとみなす」と通告してきたのだ。
「アメリカの一私企業が世界の書物=文化を私物化するのか!」と、グーグルの横暴なやり方に危機感を抱いた日本の出版界は、日本政府を巻き込んで、すぐさま対応を検討。その結果、2010年に総務省、文部科学省、経済産業省が合同で「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(通称・3省デジタル懇談会)を立ち上げるに至った。そこで検討された議題のひとつに「出版者への権利付与に関する検討」(文部科学省担当)があったのだ。
著作隣接権は、著作物の創作者ではないが、著作物の伝達に重要な役割を果たしている者に認められた権利。出版界が想定しているこの権利が認められれば、許諾なくアップストアで違法配信されている電子書籍や紙の海賊版の取り締まりなどができるようになる。音楽の分野では当たり前にある権利だが、出版界がこれを有する国はない。