当麻氏は、みずほ銀行から工藤氏を含めて9人引き抜いてきた。だが、彼らはすべて当麻氏と同じ旧第一勧業銀行出身者であり、しかもその全員が役員に昇格した。金融庁はこれを「情実人事ではないか」と問題視しているのだ。次期社長の工藤氏は役員の大幅なリストラを迫られそうである。
当麻氏は、2月に体調が悪化して1カ月近く入院した。その後も体調が回復しないため、3月末になって社長交代を決断した。6月の株主総会後に新社長に就任する工藤氏は、大手銀行トップの中では最も若い。
金融危機時に公的資金を注入されたあおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)とりそなホールディングスは、ともに業績が好調で公的資金の完済が秒読み段階に入っている。一方で、前身の旧日本長期信用銀行時代に公的資金を注入された新生銀行は、いまだに2000億円以上返済できない状態である。
新生銀行には現在、執行役員を含み25人の役員がいるが、そのうち9人が旧第一勧銀出身者で占められている。関係者は「みずほ銀行では旧第一勧銀出身者のポストが減らされていて、新生銀行はそのための受け皿になっていた」と指摘している。当麻氏は、自身の周囲をみずほ銀行から連れてきた人材で固め、「他の役員の進言はほとんど聞き入れなかった」(関係者)という。
こうした新生銀行の内情を問題視した金融庁は、昨年秋の金融検査で、「経営体制に問題がある」と指摘し、新生銀行に改善を求めていた。
しかし次期社長の工藤氏も5年前、当麻氏に旧第一勧銀から連れられてきた人材である。「わずか5年でトップに就任する人事に、生え抜き社員は強い不満を持っている」と関係者は語っており、金融庁が工藤氏に「旧第一勧銀出身の役員を大幅に削減するよう」に求めるのは必至だ。さらに、公的資金の早期返済に向け、経営の抜本的改革を迫っていくものと見られている。
こうした金融庁の介入に下心がないとはいえない。金融庁があおぞら銀行に、新生銀行を吸収合併させたがっているのは業界では周知の事実であり、そのための障壁を新生銀行から取り除きたい――というのが、金融庁の本音であろうことは想像に難くない。
金融庁からの圧力、新生銀行内部からの反乱――。若き次期社長の工藤氏の経営手腕が問われることになりそうだ。
(文=編集部)