加藤氏が「中国で一番有名な日本人」となった経緯については、文春記事本文が「中国共産党宣伝部と、胡錦濤傘下の共産主義青年団」によって育成されたためだと報じている。だが、ここで首を傾げることがある。
文春が加藤氏の経歴詐称を報じて以降、中国では「人民日報」(WEB版「人民網」)が「社会の『集団盲信』が生んだペテン師・加藤嘉一」と、露骨な題名をつけた論評記事を掲載。さらに国営放送のCCTVや中国国務院傘下の「中国網」でも独自の批判報道がなされるなど、いまや中国共産党系の主要メディアにおいて、日本以上に激烈な「加藤叩き」が行われているように見えるのだ。
中国共産党はなぜ、苦労して手ずから育成したはずの加藤氏を守らずに、徹底的な攻撃を加えているのか? その背景について、日本国内在住の中国人ジャーナリストは、次のように説明する。
「中国共産党は、10年ごろの段階ですでに加藤嘉一氏を切り捨てたという情報が、現地メディア筋や北京大学筋などから伝わっています。北京五輪が終了したことで『中国を褒める外国人』の利用価値が低下したのに加え、共産党系の英字紙がアメリカのワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズに多額の広告出稿を進めるなど、当局はこの時期に多額の資金を投じて、米国・日本・台湾などを対象にした、より大規模な対外世論工作を発動。こうした大規模作戦を前にして、加藤氏の影響力はあまりにも微小でしかなく、党にとって使えない『駒』になってしまったというわけです」
中国で「一番有名な日本人」であるはずの加藤氏が、なぜか中国国内での活動をセーブし、日本のメディアに盛んに登場し始めたのは、ちょうど10年の秋以降のことだ。共産党内の方針変更によって中国本土での仕事が激減した結果、日本への「逆出稼ぎ」に来たのだと考えれば、こうした動きにも納得がいく。
中国共産党が加藤氏を切り捨てたのは、「東大合格を蹴って北京大に留学した」といった、ちょっと調査すればすぐにバレるような嘘を連発する彼のビッグマウスも一因だったのかもしれない。
「党の意見を忠実に代弁する外国人の役割を担わせるには、加藤氏は言動や経歴に隙が多く、リスクが大きいのは事実でしょう」(同)
(「YouTube」より)
このジャーナリストによれば、共産党は10年以降もしばらくは加藤氏の動きを放置しており、中国国内でのメディア出演や講演活動を容認していたのだという。とはいえ今年5月、加藤氏が中国で「南京事件の真相はわからない」と発言したことを理由に、中国メディアが総出で大バッシングを行っているように(ご参考:http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=61945)、当局がすでに加藤氏への支援から手を引いているのは明らかだと語る。
「例の『南京事件の真相はわからない』という発言は、党の広告塔の役割を担っていた10年以前ならば、問題にもならなかったでしょうね。しかし、後ろ盾を失った現在の彼には、許されるものではありませんでした。また、日本国内のメディアで、尖閣諸島の領有権や劉暁波のノーベル平和賞受賞について“日本人向け”“西側向け”の発言を続けたことも、おそらく共産党の心証を悪くしたはずです。現在、中国国内のメディアが加藤氏を攻撃する際にしばしば用いているのが『中国では日本の悪口を言い、日本では中国の悪口を言う』という決まり文句。共産党は、加藤氏の利用価値が完全に消滅して役立たずになったと判断し、叩き潰す方針に切り替えているとみられます」(同)