証言を裏付けるかのように、中国問題に詳しいある日本人ジャーナリストはこう説明する。
「文春記事が出た当日から翌日にかけて、『人民網』や『中国網』、『環球網』など中国の主要サイトが、早くも加藤バッシングの独自記事を報道。中国の国内メディアが、日本の週刊誌記事に対してここまで迅速な反応を示す事態は、通常はあり得ません。加藤氏の経歴詐称疑惑自体は、今回の記事が出る前からすでに日中のネット上では話題になっていましたし、おそらく中国側は文春記事の発表以前から、加藤潰しの原稿を用意していたのではないでしょうか」
「狡兎死して走狗煮らる」とは中国の古い格言だ。
加藤氏は中国国内で、「(ダライ・ラマ政権支援者の日本人は)日本右翼勢力」「胡錦濤主席の思想に感服」といった言動で中国共産党の“走狗”として働き、党の宣伝部により「中国で一番有名な日本人」の地位に押し上げられた。だが、当局の事情により用済みになったことで、あっさりと“煮られて”しまったらしいのである。ほとんど“自業自得”に近いとはいえ、まだ20代の加藤氏は、中国を相手にずいぶんヘビーな経験をするハメになったようだ。
もっとも、今回の加藤氏騒動から浮かび上がる最大の問題点は、単に彼個人の「東大合格」といった経歴詐称や、日本人の若者が中国国内で共産党の広告塔として“反日”発言を繰り返していたことではないだろう。ここまで特殊な政治的背景がある人物を「新時代の中国通」として無邪気に持ち上げてきた、NHKや朝日新聞、ダイヤモンド社や日経グループといった日本の大手メディアの姿勢こそ、最も非難されるべきものであるはずだ。
先の日本人ジャーナリストは「加藤氏の日本国内での講演料は2時間当たり50万円前後で、喜んで大金を支払っていた上場企業も少なくない」と語る。講演者の身元すらもろくに調査せずに「中国情報」をカネで買うような姿勢でいるからこそ、日本企業は中国ビジネスに失敗するといえるのではないか。
今回の騒動から私たちが学ぶべきことは、「○○氏は大ウソつきだ」といった表面的な話ではなく、中国という国の底知れぬ恐ろしさと、日本人のメディアやビジネス業界の“情弱”ぶりなのかもしれない。
(文=編集部)