「週刊文春」(文藝春秋/11月8日号)
(ダライ・ラマ政権を支持する日本人は)「日本右翼勢力」
「中華文明は偉大であり、毛沢東は唯一無二の素晴らしい人物」
「胡錦濤主席の講話が体現する思想の深さに敬服」ーー。
これらは中国共産党のプロパガンダ文書の引用ではない。近年、日本でも盛んにメディアに登場している、通称「中国で一番有名な日本人」加藤嘉一氏が、中国国内で行ってきたとされる言動の数々だ。
加藤氏は、留学先の北京大に在学中から「カリスマ留学生」として中国国内でもてはやされ、国営放送である中国中央電視台(CCTV)などの国営メディアにもしばしば出演。2010年からは活動の舞台を日本国内に移し、現時点までの1年半で対談本や自己啓発本を含む8冊の著書を刊行。さらにダイヤモンド社や日経グループのウェブサイトにコラムを執筆し、NHKや朝日新聞にも「中国通」の若手論者として盛んに登場するなど、20代後半の若者としてはケタ違いの飛躍を遂げている。
だが、そんな彼が、日本の人々の目が届かない場所で行っていた「言論活動」とは、実はとんでもない内容のものであった。
加藤氏については、「週刊文春」(文藝春秋/11月8日号)に掲載された『中国で一番有名な日本人“加藤嘉一”の経歴詐称を告発する』が、彼の経歴詐称問題について報じている。彼が「東大合格を蹴って北京大に留学した」「北京大では朝鮮半島研究センター研究員を務めている」といった虚偽のキャリアを日中両国で使い分け、両国の情報格差を利用して経歴詐称を繰り返していた事実を暴いた内容だ。この記事は、ツイッターなどネット上を中心に大きな反響を呼んだ。
文春の記事本文は、経歴詐称以外にも加藤氏について詳細な報道を行っている。そのひとつは、本稿冒頭の発言のような、加藤氏の中国国内での「反日」「媚中」言説。もうひとつは、加藤氏が「中国側の親中世論形成プロジェクトの一環として組織的に養成された」とする指摘だ。
以下、記事に掲載されている、中国大手メディア幹部の証言を引用して紹介しよう。
「彼(=加藤氏。筆者注)は中国によって育てられたと言っても過言ではない。二〇〇四年ごろ、中国共産党宣伝部と、胡錦濤傘下の共産主義青年団(共青団)を中心に、国内外の世論工作を目的とした“中国を高く評価する”外国人の育成計画が成立しました。加藤氏はそのテストケースと言ってよい存在です。彼の流暢な中国語は、個人教師が数人で徹底的な教育を施したため。中国語の著作も、教官たちが三人がかりでリライトに協力していたといいます」
「日本人であることを中国メディアがこれだけ取り上げ、また国営テレビに出演することなどは、党の宣伝部の了解なしにはあり得ません。日本人青年の口から中国政府を褒めさせ、国内世論の安定を図ろうとしたのでしょう」
とにかくきな臭い話ばかりが聞こえてくる、加藤氏の身辺。彼の所属事務所へ取材を申し込んだところ拒否されたため、今回、独自取材を通じて、加藤氏の人物像とその背景についての証言を集めることにした――。