公務員や民間業者、国民の個人情報の売り買い横行 マイナンバー制で回復不能の重大事故も(後編)
ましてや近年は、ブラック企業まがいの下請け企業で低賃金非正規雇用労働者が情報メンテナンスに携わるケースは増えています。参考までに、氷山のほんの一角と思われる、近年摘発された事例を以下に紹介します。
(1)『職歴漏洩、1件3万円 都内業者、容疑者に依頼か』(12年6月3日付朝日新聞より)
ハローワーク横浜で雇用保険の登録事務をしていた職員(47)が、探偵社代表(51)から頼まれ、被保険者の職歴情報を漏らしたとして2人とも逮捕(国家公務員法の守秘義務違反)。この背景には、東京の調査会社が、全国の探偵社からの一括注文を受け、情報ルートを持つ同業者に発注して情報を買い、全国の探偵社に向けて販売するという構図があった。この東京の業者は、昨秋には横浜の探偵社経由で、東京の司法書士が不正入手した戸籍情報も買っていた。逮捕された職員の報酬は1件5000~1万円、戸籍不正入手の司法書士は1件5500円だった。
(2)『ドコモ・auの客情報売買 探偵業者、販売店を利用か』(12年7月2日付朝日新聞より)
ソフトバンクの顧客情報が漏れていた事件で、愛知県の同社携帯電話販売店店長が自分のIDで顧客の自宅住所などを入手して、探偵社に1件6000円で売っていた。この探偵社は、ソフトバンクだけでなくNTTドコモやauの顧客情報も1件1万6500~9万8000円の値をつけて販売したり、他の業者の仲介役だった。また、これとは別に警視庁は、消費者金融からの借金の残高や延滞情報などの「信用情報」が不正に流出する事件が続いたことから(貸金業法の信用情報の目的外使用違反)、日本貸金業協会に再発防止の要請を行っている。
(3)『警察官、車の所有者漏らす 長野の2容疑者逮捕 愛知県警』(12年7月20付朝日新聞より)
愛知県警が県内の探偵業者らの捜査を進める過程で、長野県警の現職警察官2人が逮捕(地方公務員法の守秘義務違反)。自動車の所有者情報を警察官の特権で照会し、探偵業者に売っていた。この探偵業者も同法の「漏洩・そそのかし」で逮捕されたが、愛知県の探偵業者からの依頼を受けていた。
上記はたまたま発覚した事例ですが、バレない事例は全国にゴマンとあるはずです。探偵調査業務という商売がある限り、個人情報の秘匿において個人情報保護法はさほど役に立っているとは思えないのが筆者の率直な感想です。むしろ、これまで以上に個人情報の集積が進むマイナンバー法が来年から施行されると、ますます恐ろしい世の中が現出するだろうと懸念せざるを得ません。
国民のプライバシー権への重大な侵害
マイナンバー法は、かつて反対の声が強く、政府が成立を断念せざるを得なかった、特定個人を識別するための番号を国民全員に割り振る「国民総背番号制」の焼き直しです。行政事務の縦割りの無駄を排することによる効率化をアピールしているものの、主眼は国民のプライバシー権への重大な侵害(自己情報コントロール権の剥奪)を前提とした法律にほかならないのです。
納税面における所得の把握のみならず、固定資産・金融資産の把握、社会保障面での年金記録、病歴、遺伝情報など、他人に知られたくないありとあらゆる個人情報を、本人の同意なく国家が一元的に管理コントロールしようという恐るべき法律なのです。防災対策などもアピールしていますが、現時点ですらまともに機能していないのに、情報一元化で国民の命が守れるなどというのは、とんだ牽強付会です。
当然ですが、行政官吏による盗み見や管理面の瑕疵による情報漏えいがあれば、回復不能の重大事態も危惧されます。ベネッセの顧客情報漏えいどころの話ではないのです。
前回紹介した探偵調査業務における「情報屋・データ屋」の跋扈も危惧されます。実際、サイバー攻撃に対するセキュリティー対策すらおぼつかないのが現状ですから、時期尚早といわねばならない制度なのです。アメリカではID詐欺などの犯罪を助長しており、イギリスでは人権侵害装置として「国民ID制度」はすでに廃止されています。マイナンバー制が、将来の日本国の財政破綻を見越し、預金封鎖や資産課税強化を行うための準備が真の目的と揶揄されるゆえんです。
政権に飼いならされた新聞、テレビのマスメディアが政権と歩調を合わせる中、私たち国民は「ゆでガエル」状態を余儀なくされていることを自覚しておくべきです。
(文=神樹兵輔/マネーコンサルタント)