税務調査をしたら帳簿を破棄していた
むかしむかし、ある会社に税務調査がありました。調査官がいつもどおり他愛のない話をしてから会計帳簿を見ようとしたところ、社長は「帳簿はない」と言います。「ない」と言われて「はい、そうですか」とはなりません。嘘をついている可能性もありますし、調査担当者は帳簿がない理由を上司に報告する必要があるので、本当に帳簿がないのかを確認します。
社長によると、帳簿を保存していなかったのは経営状況が廃業寸前に追い込まれていたときに、事業を継続するため人員を削減する必要があると考え、廃業寸前であることを示す目的で、書類を処分したからだそうです。
仮にそれが本当だとして、なぜ廃業寸前だと帳簿を破棄するのかわかりません。逆に、廃業寸前である証拠がなくなってしまいます。
さらに、それほどまでに追い詰められていた経営状況は、「やむを得ない事情」に当たると主張しました。それどころか、これ以上の「やむを得ない事情」はあり得ないとまで言いました。だから、課税仕入を認めてほしいということなのでしょう。
社長「ないものはどうしようもない。あとは税務署長が判断することだ」
調査担当者「帳簿書類がないことについて、税務署長に対し何か申し述べたいことがあれば、書類を作成して提出してください」
社長は、“やむを得ない事情”を記した嘆願書を作成して提出しましたが、それが認められることはなく、課税仕入をすべて否認されてしまいました。
課税仕入が認められず消費税を余計に納めなければならなくなり、さらに法人税についても推計課税による判断となるため、会社にとって都合の良い結果とはなりません。
廃業状況にあることを従業員に示す目的で帳簿書類を処分するということは、甚だ軽率な行為であり、災害に準ずるようなものではありません。課税仕入が認められなければ、会社にとって大きなマイナスです。
みなさんは、どんなことがあっても、帳簿書類を破棄することがないようにお願いします。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)