新型コロナ・ショックは我々の生活だけでなく、株価をも揺るがした。2月後半の3連休明けから株価は続落、一時は2万1000円を割り込む水準まで落ち込んだ。2020年正月の日経新聞には「今年の高値は2万5000円以上行くのでは」という観測も踊っていただけに、想定外のこの下げに肝が冷えている個人投資家は多いはずだ。株安は日本だけではなく、欧米もアジアも軒並み厳しい。コロナ騒動がもし昨年に起きていたら、間違いなく消費増税は吹っ飛んだことだろう。
こうした状況は一進一退だが、コロナ禍の終息が見えて、東京オリンピックのゆくえが定まらないことには出口が見えない。19年に巻き起こった「老後資金2000万円問題」をきっかけに、つみたてNISAやiDeCoをスタートさせた投資初心者が多いとも聞く。順調に投資商品の積み立てを始めたところに、この大幅下げだ。マイナス表示がついた資産残高を見て動揺しているかもしれない。なかには、積み立てはしばらく休みたい……と泣きそうな人もいるだろう。
かつて、筆者も積み立て投資をスタートして間もなくリーマン・ショックに遭遇、日経平均が8000円台になったあたりで耐え切れず中止したクチなので、偉そうなことは言えない。
しかし、理論上で言えば、値動きする金融商品の積み立ては価格が下がっているときこそ買い時である。毎月同じ金額で投資信託を買い付けている場合は、基準価額が安ければ安いほどたくさん買えるからだ。逆に、値が上がれば買える口数は少なくなる。これが、投資セミナーで最初に習う「ドルコスト平均法」だ。
とはいえ、ドルコストで淡々と買う方法が一番儲かるわけでなく、適正価格より安いときにどっさり買ったほうがいいに決まっている。先のリーマン暴落では、その時期にめげずに積み立てで買い始めた人は、かなり利益が出たとか出なかったとか。そう考えれば、今が積み立てスタートの好機と言えないこともない。
落ちていくナイフをがっちりつかんでやろうじゃないかという度胸のある人は、たぶん投資に向いている。やる気になった人がスムーズに始められるのが、クレジットカードによる積み立てだ。
投資資金は後払い、ポイント還元も
クレジットカード決済による投信積み立ての一番のメリットは、証券口座に先に資金を入金する必要がないことだ。カードの引き落とし用の口座に残高さえあればいい。また、使うカードによってはポイント還元も期待できる。
身近なカードによる投信積み立ての先駆けになったのは、18年からスタートしたtsumiki証券のサービスだ。丸井グループが発行するエポスカードを使い、普段の買い物代金とまとめて決済ができる。
エポスカードはユーザーの約7割が女性で、しかも若者層が多いという。年会費は永年無料、マルイのショッピングでの優待のほか、飲食店やカラオケなど遊興施設の割引・優待が充実しており、店頭で申し込める気軽さもあって人気のカードだ。
カード会員であれば、登録済みのIDを使えば個人情報を連携できるため、口座開設も手間がかからない。カード保有者にとっても「証券会社に口座を開く」という一番面倒なハードルを乗り越えやすいのだろう(マイナンバーは必要だが)。
tsumiki証券で買えるのは4つの投信のみ。数が多いと、初心者は逆に戸惑って選べないだろうとのスタンスだ。月3000円からの積み立てなので、4つのうち複数を買ってもいい。現在の実績では、積み立て金額1万円までが全体の56%、1万円以上が44%とのことだ。
エポスカードによる積み立て購入サービスインから間もなく、続いて楽天カードが参入する。グループの楽天証券では、手持ちの楽天スーパーポイントを積み立て投資の買付に充当できる仕組みはすでに持っていた。もっと早く始めてもよかったのだろうが、tsumiki証券から遅れること約1カ月後の開始となった。
二番手になったとはいえ、1900万人もの有効会員を持つ巨大カードの爆発力は侮れない。楽天証券によれば、19年12月時点で投信積み立てを設定しているユーザーの53%がクレジットカード決済を利用しているという。
楽天証券は先のtsumiki証券の戦略とは真逆で、とにかく買える投信の数が多い。しかも、100円以上1円単位からという手軽さだ。さらに、積み立て額の1%分の楽天スーパーポイントが貯まる。毎月1万円積み立てすれば100ポイントの付与となり、そのポイントを自動で積み立て費用に充当することもできるのだ。
なお、ポイントを使って月500円以上の投信購入(ポイントは全額でなくてもいい。「楽天スーパーポイントコース」に設定する必要あり)をすると、楽天市場での買い物がポイント+1倍にアップするSPU(スーパーポイントアッププログラム)の対象にもなる。もし100円の買い物をすれば、1%相当のポイントが2倍になり、2ポイント付与されることになる。
多くの楽天ユーザーは決済元に楽天カードを設定しているだろうから、ポイントを効率よく貯めれば、新たに資金を入れずに積み立て投資を続けることも理論上は可能だろう。実際、グループシナジーが効果的に働いて、楽天証券における新規口座開設者の約5割が楽天のサービスからの流入だというのだから、楽天スーパーポイントさまさまだ。
セゾンカードは株の積み立て購入もOK
カード決済により、投信だけでなく株の定期購入も可能にしたのが、クレディセゾンの証券サービス「セゾンポケット」だ。セゾンカード・UCカード保有者が利用できる。
スマホにセゾンポケットのアプリを入れ、セゾンカードのネットサービスに登録済みのID・パスワードを入力し、取引口座開設に進む。開設審査の完了後、最短1営業日で取引可能になるという。
積み立てできる金額は、投資信託が1000円から、株式が5000円からだが、投信はグループ会社であるセゾン投信が運用する2銘柄(セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド、セゾン資産形成の達人ファンド)のみ。
積み立て投信としては超メジャーな2本だけに、すでに保有していますという人も多いのではないか。ちなみに、この2つはエポスカードで買えるラインナップにも入っている。
「セゾンポケット」で力を入れているのは、100を超える銘柄から選べるという株式の積み立てのほうだろう。最初に書いたように、今後も株安がしばらく続くなら、良い始め時ではないだろうか。なお、楽天と同じく手持ちの永久不滅ポイントを投信や株式積み立てに使うこともできる。
しかし、エポスカードとセゾンカードの積み立て決済には、楽天カードのような毎月のポイント付与の仕組みはない。エポスカード(tsumiki証券)の場合は、積み立てを1年以上続けたら「がんばってるね!ポイント」として、年間の積み立て金額×0.1%(初年度)~0.5%(5年目以降)のエポスポイントがもらえることになっている。セゾンカードの場合は6回積み立てをした合計金額に対し、5000円ごとに1ポイントの付与がある。どちらも積み立てを続けてもらうインセンティブだろうが、ポイントはあくまでおまけと考えたほうがいいだろう。
ただし、エポスカードのうちゴールド・プラチナカードを使う場合は積み立て金額が年間の利用金額に加算され、ボーナスポイント(年間50万円以上使えば2500ポイント、100万円以上で1万ポイント)の対象になる(積み立て5年継続の場合)。
なお、クレジットカードによる積み立ては、どのカードも月5万円(つみたてNISAを利用する場合は3万3333円)が上限だ。
クレジットカードによる積み立てが始まった当初は、前借りしながら投資というのもいかがなものかと、やや抵抗があった。しかし、この仕組みが一定のユーザー数を集めているというなら、それも時流なのだろう。乱気流相場だからこそ、あえて長期積み立て運用を初めてみようと考える人には、手軽な選択肢となりそうだ。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト
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