税務調査に不服があったら争うべし!「国民は通達に拘束されない」裁判所が画期的判断
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな通達は「所得税基本通達36-1」です。
税務調査では、否認事項があったのに修正申告をしなければ、「更正処分」を受けることがあります。更正処分は、自主的に行う修正申告と異なり「あなたの税額は○○円です。△△円納税してください」と、一方的に通知されます。
内容に納得がいかなければ、国税不服審判所に不服を申立てることができますし、さらに裁判所に判断を委ねることもできます。
金属製品の製造販売を行う資本金3億円以上のA(仮名)という会社がありました。従業員は400人以上で、年間の売上は200億円を超えています。
Aの代表取締役Bさんは、有限会社Cに対し、Aの株式を1株当たり75円で売却しました。しかし、税務調査でこの価格が著しく低いと指摘されてしまいます。「適正な価格は75円ではなく、2990円ですよ」と言われ、所得税を課されてしまったのです。
高く売って利益を出したわけではなく、安く売ったのにどうして所得税を払わなければいけないんだ、と思うかもしれません。税法では、時価より著しく低い金額で売買した場合は、恣意的な利益移転を防止するなどの理由で、所得税が課される場合があるのです。
ポイントとなったのは、A社株式の評価です。未上場なので、取引価格はありません。その場合、法令や通達に則って評価する必要があります。ただ、法令は個別の事案すべてを網羅しているわけではないので、判断に迷うことがあります。そのため、税務調査などで見解の相違が生まれるわけです。
今回も株の評価については所得税に明確なルールがなく、「相続税のルールを借用する」となっていて、その「借用」が大きな問題となりました。株の評価方法について、最高裁まで争われたのです。結果は「原審に差し戻し」になりましたが、判決と共に示された裁判官の「補足」は、税金関係者の耳目を集めました。
租税法規の解釈は、「原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない」とされています。
文理解釈とは、「法律の規定を文字や文章に意味するところに即して解釈する」、つまり、ただ単語や文字を持ってきて解釈するのではなく、前後の文脈を踏まえた上で解釈するものです。ちなみに、一般的に意味するところよりも広くとるのが拡大解釈です。
最高裁で示された新たな判断基準
税金の世界では、「税法」の下に「施行令」と「施行規則」があって、その下に「通達」があります。個別の取扱いに迷ったら、まずは通達を調べる場合が多いと思います。通達は、税金のプロだけではなく、一般の納税者にも理解できる内容となっているので、みなさんも税金のことを調べるときは、通達を覗くかもしれません。
その通達について、この裁判の裁判官は補足で、こう説明しました。
「通達は、法規命令ではなく講学上の行政規則であり、下級行政庁は原則としてこれに拘束されるものの、国民を拘束するものでも裁判所を拘束するものでもない。(中略)通達は一般にも公開されて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっている。(中略)通達の公表は『公的見解』の表示に当たるが、そのことは、裁判所が通達に拘束されることを意味するわけではない」
つまり、税務署や国税局は通達に従うべきであるが、納税者は必ずしもこれに従うことを強制されているわけではなく、あくまで指針であると解することができます。
昔から、税務調査の際に調査担当者が通達を持ち出すと、「それは通達であって、税法の規定ではないでしょう。従う必要はありません」と抵抗する税理士がいましたが、最高裁ではっきりとこのような意見が出たとなると、ますますそのような事例は増えるかもしれません。
税法や通達について恣意的な解釈は問題ですが、それは納税者側に限ったことではなく、税金のプロの調査担当者や税務署でもあり得ることで、司法である地方裁判所でも誤ることがあります。
専門外のことは、自分だけで解決できないことも多いので、普段から専門家とのつながりを持っておくことが大切です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)