元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「『おい調査さ行ぐんだで!』2人はデッキの手すりに寄りかかって、新人が背のびをしたように伸びて、帳簿を抱かかえ込んでいる税理士を見ていた」です。
この連載でも何度か取り上げてきた金の売買を使った「消費税の還付」。その指南をしていた税理士が、脱税で告発されました。
かねて、不動産投資を行う人たちの間で金の売買による課税売上割合の調整がトレンドとなっていましたが、昨年末に発表された税制改正により、改正後に行われることはなくなりました。「金の売買」と聞いて非日常的な怪しさを感じる人もいるかもしれませんが、改正で対応することからもわかるように、違法ではありません。
しかし税理士は、このコンサルティングによって得た売上を除外していたようです。税法を知り、税の大切さを理解した税理士が脱税を行うのは珍しく、報道を見た多くの人が驚いたと思います。
税理士資格は剥奪。税理士になるために何年も勉強に費やしたはずなのに、資格を失うリスクを冒してまで脱税をするなんて、理解しがたいです。急に大金を手にし、納税意識が崩落したのでしょうか。
実は、報道の前から当該税理士に調査が入っていることは知っていました。それは、この税理士にコンサル料を支払っていた法人に、反面調査が入っていたからです。
反面調査とは、どこかの法人や個人事業者の税務調査に付随して行われます。調査先から得た情報だけでは不十分な場合や非違が明らかでない場合に、取引先に臨場して聞き取りや資料収集に当たることを指します。
反面調査をされる会社からすれば、時間を取られるだけでなく精神衛生上もよろしくない行事です。行われないに越したことはありません。しかし、協力しなければ不正に加担していると思われてしまうかもしれないので、要求には可能な限り応ずるべきだと思います。
突然の反面調査
反面調査は、いつだって突然です。調査担当者は連絡なしにやってきます。通常の税務調査が無予告で行われれば「顧問税理士が来るまで対応できません」「今日は都合が悪いので、予約をしていらしてください」などといった対応もあると思います。
しかし、反面調査であれば、そのように断る人は聞いたことがありません。ぼくの知らないところでいるかもしれませんが、断って発生するリスクを考慮すると、素直に応じることが多いように思います。
ある日、ぼくの知人の知人が経営する法人に、国税局査察部がやってきました。理由を聞くと、反面調査だと言います。反面調査がなんのかはよくわからないものの、大勢で闖入してくる様子はありません。社長は、すぐに顧問税理士(金の売買とは関係のない、法人の申告を依頼している税理士)に連絡しました。
社長「マルサが来てるんですけど」
税理士「え? なぜですか?」
社長「○○税理士の件で、確認したいことがあるって」
税理士「ああ、あの金の売買の」
社長「どうしたらいいですかね」
税理士「話ぐらいなら、いいと思いますよ」
社長は職員を応接室に通し、話をすることにしました。金の売買に関するコンサル料の支払いやコンサルの内容を確認され、取引記録をコピーさせてほしいと言われたところで再度、顧問税理士に相談しました。
社長「資料も見せてほしいと言ってるんですが」
税理士「見せなくていいんじゃないですか」
社長「そうですね。十分、協力したし」
社長は資料のコピーをさせず、話だけで帰ってもらいました。しつこく粘られることもなかったそうです。告発された税理士が大勢の人にコンサルを行っていたとすると、この法人から無理に資料を収集する必要はなかったのかもしれません。
税に精通している税理士であっても、脱税をすればバレてしまいます。安易な売上の除外が、とてつもない損害になると思い知らされる事案だったと思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)