東京医大前理事長の1億円申告漏れ、公表に疑問も…相反する守秘義務と情報公開のバランス
元国税局職員、さんきゅう倉田です。医師の好きな部分は「領収証がなくても経費が認められる“概算経費”の制度があるところ」です。
東京医科大学前理事に対して税務調査が行われ、1億円の申告漏れが指摘されました。受験生の親などから個人で受け取った謝礼を申告していなかったそうです。贈与税の申告漏れではなく、所得税の申告漏れの指摘ですが、所得の種類は10種類あります。事業所得か雑所得、あるいは一時所得のどれに該当するのでしょうか。
報道によると、前理事だけでなく、前学長も同様に謝礼を受け取ったとして、4年間で数百万円の申告漏れを指摘されています。過少申告加算税を含む所得税の追徴税額は前理事が約4000万円、前学長が数百万円で、すでに修正申告したとみられます。これは、“例の事件”が発覚しなければ、税務調査が行われることもなかったと思います。
2018年12月「東京医大、入試不正で109人が不合格に 問題漏洩も」(日経新聞)と報じられました。まだ記憶に新しい方もいると思います。文部科学省の元局長が、前理事から「私立大支援事業の対象校に選ばれるように助言してほしい」などと依頼され、見返りとして元局長の息子を合格させたとされる汚職事件に端を発し、明らかになりました。元局長は受託収賄罪、前理事、前学長も贈賄罪で起訴されています。
東京医科大学の入試では、女子や浪人生を不利にする得点調整が行われていました。具体的には、小論文の得点操作や推薦入試の受験生に問題を漏洩した疑いがあるそうです。問題を事前に知らされた受験生は試験直前、予備校講師に対し「試験問題が手に入った」と話しており、小論文の点数は1位でした。これらの不正は学長からの指示で、男子学生を増やす目的で行われていたようです。
なぜ税務調査の結果が公表されたのか
ちなみに、特別な場合を除いて税務調査の結果が公表されることはありません。先日、ZOZOの創業者で前社長の前澤友作氏が、自身の税務調査の結果が報道されたことに対し、SNSで言及されていました。国税局は、情報漏洩の防止や守秘義務遵守に対し、特に積極的な行政組織です。それなのに、脱税で告発された人間以外の課税情報が公になることに疑問を感じます。有名なタレントの調査結果が公表され、そのタレントは記者会見をしたあとに活動を自粛したこともあります。
報道することが悪いとは思いません。報道されていたなかで軽微な申告漏れはないし、社会的に一定の効果があるからです。ただ、どのような法的根拠でリークしているのかは、気になります。行政組織の行為として、相反する守秘義務をどのようにクリアしているのか、長年調べていますが、明確な根拠には辿り着けませんでした。組織としてのリークだから守秘義務に反しないのでしょうか。査察部で強制調査を行っていた国税OBや国税庁の記者クラブの人に確認しましたが、根拠は不明のままです。
さて、元理事の申告漏れの金額は1億円で、過少申告加算税を含む追徴税額は4000万円です。この「申告漏れの金額」というのは、謝礼として受け取った金額の合計です。1年間ではなく、調査の対象となった数年間で受けったと考えられます。
元理事は、大学から給与を受け取っていたはずです。また、それ以外にも収入があったかもしれません。例えば、執筆や講演、著書の印税収入などが想定できます。元理事の収入がわからないので、累進課税である所得税の税率はわかりません。ただ、一時所得はギャンブルや懸賞の賞品、拾得物を交番に届けて3カ月後にもらった場合など、ラッキーで得たような所得が該当します。法人から一方的に、贈与のような形で金銭をもらった場合も一時所得です。謝礼が一時所得に該当する可能性はありますが、その計算において、一時所得は2分の1を乗ずるので、追徴税額から逆算すると、事業所得か雑所得として認定されたと考えられます。
今回の申告漏れは、贈賄で起訴されたために社会的波及効果が高いと考えられた、あるいは社会的制裁を与えるために公表されたのかもしれません。贈収賄や入試での不正行為に由来する不正な金銭でも、収入があれば正しく申告しなければいけないのです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)