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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

飲酒運転を起こすと自動車保険から保険金が支払われない?同乗者も罪に問われる可能性も

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
飲酒運転を起こすと自動車保険から保険金が支払われない?同乗者も罪に問われる可能性もの画像1
「Getty Images」より

 TOKIO元メンバーの山口達也容疑者が飲酒事故を起こし逮捕され、日本中に衝撃が走りました。事故直前の画像を見ましたが、明らかに蛇行運転で、ひとつ間違えれば大惨事を引き起こしかねないと、見ているこちらのほうがヒヤリとしました。被害者の方にも山口容疑者にもケガがなかったことが不幸中の幸いでした。

 ところで、飲酒運転で被害に遭った場合、保険金は支払ってもらえるものでしょうか。一般社団法人日本損害保険協会 経営企画部広報室の西村敏彦さんに聞いてみました(以下、敬称略)

――飲酒運転は、刑法・道路交通法の改正と厳罰化により、運転者本人だけでなく、酒類を提供したお店も罰せられます。また20歳以下に販売しなくなったこともあり、飲酒運転による事故は減少していると聞きますが、実際はどうなのでしょうか。

西村 警察庁のデータを基に当協会が2009年~19年の飲酒運転事故件数の推移をまとめた表があります(グラフ参照)。これを見ると、飲酒運転事故の件数は年々減少していますが、飲酒を原因とした悲惨な事故はまだまだ後を絶ちません。

飲酒運転を起こすと自動車保険から保険金が支払われない?同乗者も罪に問われる可能性もの画像2
出典:日本損害保険協会ホームページ

被害者への保険金支払い

――実際に事故が起きた場合、自動車保険では飲酒運転の運転者や被害者にそれぞれ保険金は支払われるのかが気になります。まずは被害者の補償からお聞かせください。不幸にも飲酒運転での事故に巻込まれ被害者となってしまった場合、保険金は支払われるのでしょうか。

西村 被害者の場合は、飲酒運転による事故でも保険金は支払われます。“被害者救済”の観点から、法律に基づく強制保険である自賠責保険、および任意保険、つまり損害保険会社が発売している自動車保険の対人賠償保険のいずれからも保険金が支払われます。

――自賠責保険と対人賠償保険を簡単に説明いただけますか。

西村 自賠責保険は、自動車の運行によって他人を死傷させた場合、加害者が負う損害賠償額について保険金をお支払いします。ただし、被害者の自動車や建物など物の損害は補償されません。また、支払限度額が定められています。対人賠償保険は、自賠責保険で支払われる額を超える損害賠償額に対して支払われる保険です。

 ただし、注意しなければならないこともあります。飲酒運転の被害者でも、運転者が加入している任意保険から保険金が支払われない場合があります。先ほど、飲酒運転による事故の場合でも対人賠償保険から保険金が支払われると説明しましたが、任意保険の場合、もともと補償の対象ではない運転者が起こした事故では、保険金は支払われません。

 例えば、運転者本人・配偶者限定特約がセットされた自動車保険の契約車両で、運転者本人や配偶者以外の友人が運転中に事故を起こした場合は、飲酒運転かどうかにかかわらず、保険金は支払われません。なお、その場合でも、被害者には自賠責保険から保険金が支払われます。

――歩行中の場合は、どうなりますか。

西村 飲酒運転により歩行中の方にケガを負わせてしまった場合も、 自賠責保険と対人賠償保険の2つが適用となります。

自賠責保険には支払限度額

――被害者のケガに対して、自賠責保険自動車保険から、いくらぐらいの保険金が支払われますか。

西村 自賠責保険では、治療費、通院交通費などの治療関係費、交通事故証明書の発行手数料などの文書料、および休業損害(原則として、1日につき6,100円)、慰謝料(1日につき4,300円)が支払われますが、被害者1名につき120万円が支払い限度額となっています。

――お亡くなりになった場合や後遺障害になった場合は、いかがですか。

西村 お亡くなりになった場合は、葬儀費、逸失利益、被害者本人の慰謝料および遺族の慰謝料が支払われますが、1名につき3,000万円が限度額となっています。後遺障害による損害は、身体に残った障害の程度に応じた等級によって、逸失利益や慰謝料などが支払われますが、等級別に1名につき75万円から4,000万円の支払い限度額が定められています。

――自賠責保険には、支払い限度額があるんですね。死亡や重篤な症状ほど、被害者の方の身体的・精神的な被害を考えると、やはり任意保険である民間の自動車保険の加入の必要性を痛感しますね。任意保険からの支払額はどうなるのでしょうか。

西村 先ほどご説明したように、自賠責保険により支払われる保険金を超える額に対して、対人賠償保険から保険金が支払われます。対人賠償保険の賠償限度額が無制限の場合、算定された損害額から被害者の過失分を引いた額が支払われることになるでしょう。

――加害者が保険に加入していない場合は、どうなりますか。

西村 被害者は、加害者に直接損害賠償請求をしたり、加害者が任意保険、自賠責保険のいずれにも加入していない場合は政府保障事業へ請求できます。また、車同士での事故でケガをした場合に、被害者ご自身が加入されている人身傷害保険や無保険車傷害保険(対人賠償保険を契約していないなど賠償資力が十分でない他の自動車との事故で、運転者や同乗者が死亡または後遺障害を被った場合に保険金が支払われる)から保険金が支払われます。詳しくは損害保険会社にお問い合わせください。

――加害者の補償はいかがですか?

西村 万が一飲酒運転の被害者になってケガをしたり、物を壊されてしまった場合は保険金が支払われますが、飲酒運転の運転者自身のケガやその車の損害には、保険金は支払われません。

――どこの損害保険会社も同じでしょうか。「うちの代理店は地域では知られた存在だから、頼めばなんとかなる」と思っている方もいます。

西村 基本的にはどこの保険会社も同じ取り扱いです。詳細についてはご契約の損害保険会社にご確認ください。また、保険金を支払うのは代理店ではなく、損害保険会社です。

――では、飲酒運転事故により同乗者が亡くなったり、ケガをした場合も同じ扱いですか?

西村 通常、同乗者は事故の被害者となりますので、故意または重大な過失がない限りは、人身傷害保険や搭乗者傷害保険で補償されます。ただし、道路交通法では「何人も、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない」と規定されています。したがって、運転者が飲酒していることを同乗者がまったく知らないというケースは考えにくい以上、同乗者も道路交通法上の責任を問われるでしょうし、場合によっては故意や重大な過失ありとみなされることも、あるかもしれません。 

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――飲酒運転をした加害者が保険に加入していれば、被害者に支払われることはわかりました。でも、加害者にはなんの経済的負担もないのでしょうか。

西村 加害者が自賠責保険と任意の自動車保険に加入していれば、被害者には保険金が支払われるため、飲酒運転事故による加害者の経済的負担は少ないかというと、実はそうではありません。加害者自身が被ったケガの治療費や車両本体の修理費などについては、自動車保険はもとより、医療保険などからも保険金が支払われません。

加害者への罰則

――飲酒運転の罰則は?

西村 飲酒運転には行政処分や道路交通法の罰則があり、交通事故を起こすと処分や罰則がさらに重くなります。行政処分では、酒酔い運転は免許取消、欠格期間は3年で、さらに死亡事故を起こした場合は、欠格期間は7年です。道路交通法では、酒酔い運転は5年以下の懲役または100万円以下の罰金が適用されます。また、他人を死傷させてしまうと刑法に定められている危険運転致死傷罪が適用(飲酒運転等でケガを負わせた場合、20年以下の懲役)されます。

――飲酒運転で死亡事故を起こし、悪質と判断されたなかには、懲役20年という判決も出ていますね。さらに、勤務先の処罰も控えています。ちなみに貴協会の飲酒運転に関する就業規則等は、どのようになっていますか。

西村 就業規則で飲酒運転という言葉を明確に示した規定はありませんが、飲酒運転は、懲戒事項の『重大な法令違反行為があった場合』として厳正に処分(懲戒)することとなります。

――やはり協会の性質上、厳格なのですね。貴協会では飲酒運転撲滅に積極的に取り組んでいらっしゃいますが、どんな啓発活動をされていらっしゃいますか。

西村 損保協会では、交通事故の削減により、被害者とともに加害者も減少する社会の形成に向けてさまざまな取り組みを推進しています。飲酒運転防止の取り組みもそのひとつです。企業の経営者、安全運転管理者などが飲酒運転防止の社員教育や研修を行う際の手引きとして『飲酒運転防止マニュアル』という小冊子を作成しています。このマニュアルでは、飲酒運転をした場合の企業等の罰則や、飲酒運転防止対策の各種提言、飲酒運転防止の啓発ツール・教育の紹介、さらには飲酒運転対策に困った時の相談先など、多岐にわたる情報を網羅しています。これまでに99.6万部を作成し、企業や自治体などを中心にご活用いただいています。有償(1部につき税込50円、郵送料実費)でのご提供となりますが、ホームページからダウンロード(無料)もできます。また、損保協会には全国に11の支部を置いていますが、地元県警と連携して飲酒運転防止に向けた独自の取り組みを展開している支部もあります。

――最後にこれだけは伝えたいということはありますか。

西村 交通事故、特に飲酒運転による事故は、被害者のみならず、その家族、さらには加害者とその家族など多くの関係者に大きな苦しみや悲しみをもたらし、それらは損害に対する補償や時間の経過によって癒えるものではありません。にもかかわらず、繰り返し悲惨な事故が起きています。一人ひとりがこうしたことを自覚して、運転するときには飲酒しない、させないことを実践していただきたいと思います。そうすれば、飲酒運転による事故の悲劇がなくなる日が、必ずやってくると信じています。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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