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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

多額ローン払い手に入れたマイホーム、厄介な負の財産化…売却できず毎年多額の費用負担

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役

 都心居住を物語るものとして、東京都中央区の人口の推移が参考になる。

 中央区は昭和40年代には人口16万人が住んでいたが、地価の高騰とともに人口は郊外部へと流出。平成7年には人口が7万人を切るのではないかという状態にまで落ち込んだ。人口の減少にともなって、区内の小中学校は統廃合が進み、高齢者のみが区内に取り残されるという、現在の都市郊外部のような現象が起こった。

 ところが、最近の中央区は人口が驚くほどに回復している。区内では特に月島や晴海などの工場や倉庫の跡地にタワーマンションが林立し、住民が急激に増えてきたからだ。17年1月現在で人口は14万9000人にまで回復している。

 私の友人は中央区内で父親の営んでいた新聞店を継いでいるが、人口が減少し続けたころには新聞店を続けることが良いのか悩んだ時期があるという。ところが都心居住が進み、今では販売部数も随分回復したとのことだ。タワーマンション一棟が建てば、数百世帯の需要が生まれるのだ。いくら新聞購読する人の数が減少したとはいえ、そのインパクトは絶大なものがある。

 また中央区の特徴はその年齢構成にある。区全体の人口に対して15歳から64歳までのいわゆる働き手といわれる生産年齢人口が占める割合は71.3%(中央区HPより)、全国平均である60.6%(15年内閣府発表)をはるかに超えるばかりでなく、この数値は全国の市区町村中のトップとなっている。今や中央区は日本で一番若々しい街になっているといってもよいのかもしれない。

郊外の実家が「厄介な存在」に

 いっぽうで、これまで都心に通うサラリーマンの基地であった都市郊外部の状況はどうだろうか。横浜市の南部に位置する栄区は、以前は東京に通うサラリーマンの家庭が多く街は活気に満ちていたが、ここ15年余りの間に人口は減少に転じ、さらに生産年齢人口の割合は57.4%と全国平均を下回るまでに高齢化が進行している。

 実は都心部と都市郊外の住宅マーケットとしての環境は、この15年くらいの間に激変してしまったのだ。人口の減少と高齢化は、不動産価格の下落につながる。需要の少なくなる不動産に高い価格付けはできなくなるからだ。一時は区内に1億円を超える戸建て住宅が多数存在した横浜市栄区でも最近、住宅価格は下落を続け、駅からバス便の中古住宅になると1000万円台の物件も珍しくなくなっている。

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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